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いまどきの住込み労働宿舎の住み心地――「新ナニワ金融道」最新刊に学ぶ

 週刊SPA!で連載中の「新ナニワ金融道」。その最新刊『新ナニワ金融道17 灰原の葛藤編』が発売された。本作の舞台は、前巻に引き続きダムの建設現場。大阪市長・橋舌の怒りを買ったことから、先輩の桑田と立ち上げたナニワ金融は廃業。無職となった灰原は再就職活動を始めるが、零細金融に勤めていた灰原に対する世間の目は冷たく、流れ着いたのは金融屋としての知識も経験も生かせない山奥の飯場。会社の実情を考えずにスタンドプレーに走った灰原に対する、いわば懲罰的な設定となっているが、ファンからは意外な反響が寄せられている。 「毎晩仲間とバカ話で盛り上がってどんちゃん騒ぎ。そのうえエッチな姉さんもいる、天国みたいな職場」(35歳・飲食店)、「ネットがないのは不便だけど、あの環境だったら必要ないし、むしろ健康的」(29歳・IT)、「カネが貯まるいっぽうでうらやましい」(41歳・出版) ※【画像】新ナニワ金融道17 灰原の葛藤編より
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新ナニワ金融道17 灰原の葛藤編,コミック, ブラック企業, 仕事, 労働基準法, 労働環境, 漫画 なかには「灰原の職場、どこかモデルがあるのか。そこで働きたいから教えてほしい」(45歳・飲食店)なんて声も。確かに作中では、劣悪な労働環境と同時に、現場の作業員たちとの温かい交流についても触れられている。将棋やクロスワードパズル、渓流釣り、楽器演奏など、各々が思い思いの趣味にふける様子が描かれているため、見方によっては理想郷といえなくもない。  しかし、殺人事件などで起訴を受けていた市橋達也容疑者が、逃亡中に住み込み労働をしていたと思われる寮の部屋が「あまりにも悲惨」とネット上で話題になったこともあり、「やはり飯場はキツすぎる」という意見のほうが多そうだが……。現在も関西圏を中心に、住み込み労働で職場を転々とするI田さん(49歳)に最新の飯場事情について話を聞いてみた。 「最近は見かけんようになったけど、10年くらい前までは『地獄の釜の底か?』みたいな現場も多かったです。4畳間に二段ベッドが二つ置かれてね、むっさい男4人が空調のない部屋に押し込まれるんですわ。夕飯が終わって就寝時間になったら、部屋の外から南京錠で鍵かけられて、刑務所よりキツい環境とちゃいますか? どんなに汚くても共同の職場や浴場なんてあればええほう。一番びっくりしたのは、大阪市内でビルの解体作業の現場におったとき。初日が終わって『監督、寮はどこでっか?』て聞いたら、現場の端にあるプレハブを指さして『あれや』と(笑)。けっこう往来の多いところでね、朝起きてプレハブの外で行水しとったら、近所のオバハンから『ホームレスが工事現場を占拠してる!』て110番食らったこともあります(笑)」 新ナニワ金融道17 灰原の葛藤編,コミック, ブラック企業, 仕事, 労働基準法, 労働環境, 漫画 今でもそうだが、I田さんはそうした職場の大半を、寄せ場にいる手配師との交渉で見つけるという。 「『四日市、三食、住、7000円』、『大阪市内・三食、住、6000円』なんて地名とプラカード掲げた手配師たちの呼び込み合戦ですわ。ただ最近は職場の環境の良さをうたうところが増えてきたように思います。『街が近いから仕事終わったら遊べるで』、『風呂がきれいで広いで~』ゆうてね。ただね、風呂はいいけど、街なんか近くないほうがええんですよ。やっぱりみんな、お金貯めるのが目的だし、たまに出ても、玉出(注:大阪の激安スーパーチェーン)でぎょうさん酒買うて、仲間と近場の公園でどんちゃん騒ぎするくらい。やっぱ、飯場の中より半値以上で飲めるから、それはええけどね」 新ナニワ金融道17 灰原の葛藤編,コミック, ブラック企業, 仕事, 労働基準法, 労働環境, 漫画 冷蔵庫などが個室にないのはわかるが、焼酎、日本酒など常温でも飲める酒を買い込むことはできないのだろうか? 「あ、それはアカンです(と言って首を真横に切る)。見つかったらえらい減俸食らいますから。飯場に行くとまず、契約書を書かさせるんですが、どこでも絶対に出てくる文言が、『カネの貸し借りはするな』『博打は打つな』『持ち込み厳禁』の3つ。諸式(注:軍手やカッパなどの作業道具)も街で買ったらダメ。酒も菓子もタバコも、飯場ん中で嗜むには中で買わないとアカンです。缶ビールが350円もするんやからキツイでしょ? だから、飲んべは山奥の現場に行ったらアカン。酒で文無しになるから。街が近けりゃ、仕事終わって外出て玉出でガーッて酒食らって、戻って寝ればええんやからね」 新ナニワ金融道17 灰原の葛藤編,コミック, ブラック企業, 仕事, 労働基準法, 労働環境, 漫画 搾取にも近い、想像どおりの劣悪な労働環境だが……。 「なんかよう知らんけど、最近はうるさいんでしょ。でも、こっちから言わせてもろたら、余計なことせんでってのが本音やね。まだまだ働けるし、法律がなんだか知らないけど、雇用主に気に入ってもらえたら、次の仕事も面倒みてくれたりするし、いろいろ融通もきかせてくれるんですよ。あと、こんだけ長いことやってると楽しい思い出もあってね。本当はアカンのやろうけど、廃校した学校を、雇用主の建設会社が責任持ってるかなんかで、そのまま寮になったことがあった。『ワシは2年2組や』なんて教室丸ごと個室(笑)。プールを風呂にしてな。職人の中に器用なやつがおって、近場の溶接工場で使こてる熱湯だかガスだかをうまいこと引っ張って、大露天風呂の完成(笑)」 新ナニワ金融道17 灰原の葛藤編,コミック, ブラック企業, 仕事, 労働基準法, 労働環境, 漫画 ちなみに最近「契約」した飯場で感じた大きな変化としては、若者が増えたこと。 「肉体労働なんかやったこともなさそうな青っちろい顔してたから、『兄ちゃん、どこでここ見つけたん? 西成か?』って声かけたら、『いや、ネットです』って。グローバルになったもんやで」 「住み込み 求人」と検索したところ、80万件のヒットが。大半が旅館、寮付き飲食店など、いわゆる「飯場」とは違ったものだが、興味がある方は一度ご確認あれ。 <取材・文/日刊SPA!取材班>
新ナニワ金融道17 灰原の葛藤編

金融への未練は断ち切れるのか? 建設業に転身した灰原の苦悶

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