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「小平住民投票不成立・開票なし」は仕組まれていた!? 哲学者・國分功一郎が語る

小平市,住民投票

小平市公式HPより

 5月26日、東京都小平市で都道計画見直しの是非を問う住民投票が行われた。しかし投票率は35.17%、市議会が定めた成立要件「投票率50%」に達しなかった。有権者数14万5024人のうち5万1010人が投票したが、開票はされない。その投票用紙は90日間保管の後、破棄されるかもしれない。

 今回の住民投票は、約半世紀前、1963年に都市計画決定された都道整備計画のうち、整備を後回しにされてきた小平市内を通る約1.4kmの区間・幅36mの幹線道路について「住民参加により見直す」か「見直しは必要ない」のいずれかを選択する内容だった。雑木林約0.5ヘクタールを伐採する計画のため、環境悪化を危惧する住民らが熱心に署名活動。その結果、この住民投票までこぎ着けたわけだが、市が条例可決後に付した成立要件のせいで、投票結果すら公表されない。

 小平市民として住民投票を周知させるべく積極的に活動していた哲学者・國分功一郎氏は、その結果をどう思っているのか。聞いてみた。

――今回の住民投票の結果を受けて、まずは率直な感想をお聞かせください。

 正直、残念です。この運動は反対運動ではなかった。住民が道路のことを知って、理解して、自分たちで選択できるようにするための運動でした。そのために、意見を聞く場を住民投票というかたちでつくったわけです。ところが、市が後から「成立要件」を付して、状況はとたんに変化してしまった。

――「投票率50%未満では開封しない」という市が定めた成立要件については、どう思われましたか?

 3月の末に住民投票条例が可決され、4月の頭に市長選がありました。市長は当初、住民投票には反対だったものの、条例案可決後には「議会が出した結果を誠実に受け止める」と言っていた。ですから、粛々と住民投票を実施してくれるものと思っていた。けれどもその考えが甘かった。選挙では何も言っていなかったのに、選挙後に突然、投票日も決まっている段階で「成立要件50%を付す」と言ってきて、それが通ってしまった。4月末、つまり投票の一か月前のことです。何もできませんでした。50%超えを目指すしかなかった。とはいえ、してやられたという印象はぬぐえません。

――この投票率の低さの原因は、市民の意識の低さなのか、それとも……?

 もっと分析しないといけないとは思いますが、50%の成立要件が大きく作用したことは間違いない。これには二つの効果がありました。『道路建設は見直す必要はない』という人にはボイコットを促す。『計画は見直すべきだが50%は無理だろう』という人には棄権を促す。『見直すべき』という人と『見直す必要はない』という人が投票して意見を明らかにするというのが目的だったのに、それがうまくできなくなってしまった。結局、投票しなかった人たちはどちらだったのかがよくわからなくなり、住民投票の意義が台無しにされたと思います。もちろん、それを狙っていたのでしょうが……。実際に運動をしていた人たちは、僕も含めて、すごく手応えを感じていました。これは小平市の西地域の道路計画ですけれど、東地域でも関心をもってくれる人が非常に増えていた。だから、そもそものかたちで住民投票が行われなかったことは、とても残念です。

――「住民投票」というかたちでの政治参加を踏みにじられた、と。

『地方自治は民主主義の学校である』という有名な言葉がありますけど、まさしく住民投票というのはそのような『学校』だと思うんです。住民投票を実施していく過程で住民に広く情報が共有されていきますし、考えます。そして、意見の異なる人たちがいるという当たり前の事実に直面する。そうやって政治に対する関心や意識が成長していくわけです。ところが、行政や議会はこれまで通りに自分たちだけで物事を決めたいと思っているから、強烈なアレルギー反応を示す。はっきり言って、この反発というのは僕が予想していた以上のものでした。一度議会を通った条例案に対し、選挙後に“後出しジャンケン”のようにして成立要件を付すための改正案を提出するなんて、そこまでは予想していなかった。この点では、市長の策動に敗北したと言う他ありません。そして、そうした策動を試みるほどに、行政は住民投票を嫌うということです。

――市は、この結果的に「開票しない」ことに対する反発は想像できなかったのでしょうか?

 実は住民投票実施の2日後に、東京都が事業認可申請していたことがわかりました。5万1010人が投票したというのは大変な事態ですから、何としてでも開票してもらいと思って、『住民の意思を反映させる会』が情報公開請求を行ったばかりです。そうした請求が行われるのは目に見えているのに、このタイミングで事業認可申請するということは、おそらく初めからすべてが仕組まれていたということだと思います。どういうことかというと、住民投票条例案が可決された後、

(1)市は「50%成立要件」の修正案を密かに準備する。
(2)市長の再選後に不意打ちでそれを提出、議会で可決する。
(3)50%は超えないから開票しない。
(4)投票後に間髪を入れず東京都は事業認可申請する。
(5)小平市はそれを理由に情報開示しない。

 このようなシナリオが恐らく立てられていたんでしょうね。『住民投票をやって、住民の意見を取り入れて町作りしようじゃないか』と僕らが訴えている間に、行政はそうした計画を策動していた。実は僕は、50%以下なら開票もしないというメチャクチャな改正案を市長がなぜ提出できたのか、やや不思議でした。あまりにもひどすぎますからね。50%を超えない場合には情報開示請求されるということもわかりきっていたはずです。でも、市長はこのタイミングで東京都が事業認可申請するのを知らされていたのでしょうね。つまりあらかじめ、『東京都が既に事業認可を申請済みだから情報開示の必要はない』と言い訳できるとわかっていたのだと思います。

――今後、國分氏はこの問題については、どう関わっていくのでしょうか?

 行政というのは、住民と手を取り合って町作りどころか、あらゆる手段を使って策動し、知恵を絞って全力で住民参加を阻止しようとしているとしか思えません。そして、どのタイミングで何を出せば、不意打ちされた住民が何らの対応策も打ち出せないかをよく理解している。改正案提出も、事業認可申請も、ベストタイミングで行われている。まあ、東京都や小平市が、今回の住民投票をそこまで脅威と感じていたのかとも思いますが。開票は何としてでも行ってもらいたいです。だから、これまでの運動を継続することが必要ですけれど、同時に、運動が第二段階に入ったことも間違いないですね。だから、初心に帰ることが大事だなと思ってます。僕はそもそもあの雑木林を守りたくてこの運動を応援し始めたんです。今回、住民投票を通じてこの328号線道路計画は非常に話題になった。全国区のニュースになりました。それを活かしてやっていきたいですね。シンポジウムも既に企画中です。


國分功一郎氏

國分功一郎氏

 従来の糾弾型の「反対運動」とは異なる提案型の運動として注目を集めた小平の住民投票。結果や今後の展開ももちろん大事だが、その過程を見なおしてみることは、これからの日本の民主主義を考えるためのヒントになるかもしれない。

<取材・文/日刊SPA!取材班>

【國分功一郎氏】
’74年生まれ。哲学者。高崎経済大学経済学部准教授。東京大学大学院在籍後、フランスで哲学を学ぶ。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)などがある

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気鋭の哲学者が放つ類書なき論考




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