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ワールドシリーズ“凱旋”。OB田口壮氏が米国で愛されるワケ

 ボストン・レッドソックスの6年振り世界一で幕を閉じた、ワールドシリーズ。上原浩治、田澤純一両投手は共に大車輪の活躍を見せ、上原はワールドシリーズ制覇のマウンドに立っていた史上初の日本人投手となった。

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田口氏が手にするメディア関係者パスの顔写真は、現役時代のもの。元選手へのリスペクトを感じさせる、MLBのニクい演出だ

 さて、実は今年のワールドシリーズで上原、田澤の他にもう一人、現地で注目を集めていた日本人がいる。プレーオフの試合を連日中継していたNHKの解説者として、プレーオフを現地取材していた元メジャーリーガーの田口壮氏だ。

 田口氏は2002年から2007年まで6年間、今回のワールドシリーズで惜しくもレッドソックスに敗れた強豪セントルイス・カージナルスでプレーしていた。2004年と2006年にはワールドシリーズにも出場。2006年のリーグ優勝決定シリーズ第2戦では9回に決勝ホームランを放つなど、チームの世界一に大きく貢献した。

 そして今年、スーツ姿でプレーオフの舞台に“凱旋”した田口氏は、古巣カージナルスの面々と再会した。田口氏の在籍時から選手はかなり入れ替わってはいるものの、正捕手のヤディアー・モリーナやエースのアダム・ウェインライトは田口氏にとってかつてのチームメイト。選手やスタッフはもちろん、顔馴染みの記者も少なくなかったようだ。

 セントルイス地元紙『セントルイス・トゥデイ』のジョー・ホールマン記者は、田口氏が解説者として“ホームタウン”に帰ってきたことを、同紙のウェブサイトで紹介した。

※参考リンク:So Taguchi now big-time baseball announcer in Japan
http://www.stltoday.com/lifestyles/columns/joe-holleman/article_d1959c5c-99c4-5cd7-9974-fdc6b8810849.html#.UnEh8HFWdFU.twitter

 ホールマン記者は「タグチ曰く、日本人ファンの多くは(上原と田澤が所属する)レッドソックスを応援しているが、タグチはカージナルスを応援している」と、田口氏の“古巣贔屓”を紹介。また、田口氏本人の「TVの前では(一方のチームを)贔屓できないので、中立ですけどね」というコメントも紹介している。

 記事のコメント欄では、カージナルスファンから「ソウ!!今はどこに住んでいるの??」「2つのチームでチャンピオンリングを手にした日本人選手はソウが初なんだぜ」「ソウが決勝ホームランを放った試合を、僕はソウ・タグチ・ファンクラブのすぐ近くで見ていたんだ」といった熱いコメントが寄せられており、田口氏が未だセントルイスのファンに愛されていることを物語っている。

◆献身的なプレーと英語でアメリカ人の心を掴んだ田口氏

 お世辞にもスター選手とはいえなかった田口氏だが、今もなおセントルイスで愛されている理由は何だろうか?

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常にチームを考えた献身的なプレーができた田口氏は、ラルーサ監督が最も信頼する選手の一人だった

 ひとつは、日本人らしく基本に忠実で献身的なプレースタイルだろう。田口氏のカージナルス在籍時に監督を努めていたトニー・ラルーサ氏は、常にチームプレーに徹する田口氏への賛辞を惜しまなかった。先日も、ワールドシリーズの決戦を前に田口氏と再会したラルーサ氏が「なぜ君はあんなにも素晴らしい選手だったんだ?」と褒めちぎり、それに対し田口氏が「素晴らしいマネージャー(監督)を持ったからね」と答え、お互い笑い合うという微笑ましいシーンがあった。

 地味なチームプレーの一方で、ここぞという場面の勝負強さも印象的だった。先述の通り、2006年のプレーオフでは試合を決めるホームランも放ち、ワールドシリーズ制覇の立役者となった。

 そして何より、通訳を介さず英語で周囲とコミュニケーションを図っていたことが、ファンとの距離を縮めたはずだ。田口氏はメジャー時代、現地メディアの取材には英語で受け答えしていた。渡米当初は苦労したというが、解説者となった今は外国人選手へのインタビューを英語でこなす。

 もちろん、イチローやダルビッシュら他の日本人選手も、ダグアウトやクラブハウスでは日常的に英語を話す。しかし、現役時代の田口氏のように、インタビューなど公的な場でも(通訳なしで)英語を話す選手は少ない。

 たとえペラペラではなくとも、通訳なしで話をしようとする姿勢は現地のファンに喜ばれる。来日した外国人選手が、片言でも日本語を話そうとする姿が好印象であるのと同じだ。現地のTVカメラを前にしても英語を話していた田口氏は、全米でも特に情熱的といわれるセントルイスのベースボールファンにも愛された。

「英語でインタビュー」といえば思い浮かぶのが、今季「ムネリンフィーバー」を巻き起こした川崎宗則。彼も田口同様、通訳なしでメジャーに臨んだチャレンジャーだ。今季『香取慎吾のペラペラブック』を片手に地元TVのインタビューに何度も出演した川崎は先日、週刊SPA!のインタビューで「田口さんが英語でインタビューに答えている姿がカッコ良いなと思って」と、自身のルーツ(?)を明かした。
※「ドヤ顔でとにかく喋る! ムネリン流英語習得法」
http://nikkan-spa.jp/528641

 今やメジャーで活躍する日本人選手は珍しくないが、引退後もメジャーの舞台で指導者や解説者として活躍する人はまだほとんどいない。選手以上に、言語の壁が大きくのしかかるからだろう。田口氏は今後、日米球界を股にかけたグローバルなセカンドキャリアを築く“パイオニア”となるかもしれない。 

<取材・文/内野宗治(スポーツカルチャー研究所)>
http://www.facebook.com/SportsCultureLab
海外スポーツに精通したライターによる、メディアコンテンツ制作ユニット。スポーツが持つ多様な魅力(=ダイバーシティ)を発信し、多様なライフスタイルを促進させる。日刊SPA!ではMLBの速報記事を中心に担当




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