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ウクライナのパイプラインを巡るロシアの思惑

アメリカのイラク空爆、中国のウイグル自治区弾圧、ウクライナの内乱、イスラエルのガザ地上侵攻など、戦争・紛争のニュースが絶えなかった昨今。一部は停戦も進んでいるが、現在も多くの民間人が戦闘に巻き込まれ、殺されていることに変わりはない。こうした争いは宗教や民族対立などが原因といわれているが、その陰には「カネと資源」の問題が潜んでいた!! ◆「パイプラインだけは壊さないように」破壊し尽くす!?【ロシア】
ロシア

チェチェンの石油関連施設。近くをバクー油田からのパイプラインも通っていたが、ロシア軍はパイプラインの攻撃だけは避けた(撮影/林克明)

 旧ソ連内の紛争には、ロシア帝国時に征服された被支配民族が関わっているという共通点がある。歴史・民族・政治などイデオロギーの土台の上に、資源やカネの問題が乗っかっている構造だ。 「典型的なのは、独立を求めてロシアに武力弾圧されたチェチェン紛争と、政治的に独立はしたがロシアの強い影響力から逃れられないウクライナの紛争です」と語るのは、チェチェンやウクライナなど旧ソ連諸国の取材を続けるジャーナリストの林克明氏。 「岩手県より一回り大きい程度のチェチェン共和国の独立を阻止するため、ロシアは大規模な空爆と地上戦で破壊し尽くし、約20万人の犠牲を出しました。ところが、あれだけの攻撃を受けながら、石油パイプラインはほとんど無傷なのを目の当たりにして驚きました」 石油 チェチェン領内には、世界的大油田のカスピ海から黒海の輸出港に繋がる複数のパイプラインが通っている。ロシア軍はそこを破壊しないよう気をつけながらチェチェンを攻撃したのだ。 「停戦には至ったものの、紛争が長期化したのでで、現在はチェチェンを迂回するパイプラインにシフトしているようですが、チェチェン国内自体も資源は豊富です。旧ソ連時代は軍用車燃料の8割程度をバクーとチェチェンの石油で賄っていた時期もあるといわれています。バクー油田からのパイプラインは、’08年にロシアとの間で激しい戦闘が起きたグルジア内も通過しています」(林氏)  ロシアにとって、石油・天然ガスなどによる資源ビジネスが最大の産業。その利益と切り離せないのが、ウクライナの動向だ。 「欧州の天然ガス需要は年間4850億立方メートルで、ロシアからの供給は約1600億立方メートルと約3分の1を占める。そしてロシア産天然ガス輸入の半分がウクライナ国内のパイプライン経由で供給されているのです。ロシアにとってウクライナは重要な資源輸出のルートであり、またそのエネルギーを通して欧州への影響力も行使できます。今年3月のウクライナ領クリミア半島併合、東部の親ロシア派による武装闘争など、ロシアがウクライナにこれほど介入する大きな理由の一つはそこにあるのです」(同) 石油 旧ソ連の国々をめぐる紛争の裏にはカネと資源の問題が多分に横たわっている。しかし、林氏はこう指摘する。 「エネルギー利権は確かに大きいが、ロシアの拡張主義や面子、それに対抗する非ロシア民族の思いと感情が、紛争の根底にあることも忘れてはならないでしょう」 ― [戦争とカネ]を読み解く世界地図【3】 ―
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