誤解だらけの「ブレーキなしスポーツ自転車=ピスト」報道に物申す!
チュートリアルの福田充徳が摘発されたことで一躍話題になった「ノーブレーキピスト」。
faster panda kill kill from flickr
もちろん、ノーブレーキもしくは片輪ブレーキだけで走行することは大変危険な違法行為であり、そこについては議論の余地もない。ただ、各メディアの報じ方にどうにも違和感があった。端的にいうと杜撰。というかわかってない。ピストとロードレーサーの区別すらもついていない記事が多すぎなのだ。
朝日新聞が8月7日付の記事で紹介した「競技用自転車の特徴」という図版によると、
・軽量でファッション性が高い
・スピードが出しやすい
・ハンドルが下向き
・サドルの位置が高い
・タイヤが細く大きい
・ブレーキがない、または片方の車輪のみ
・ペダルに足止めがある
と書いてある。「ブレーキがない」以外の項目は、何もピストに限った話ではないだろう!と突っ込まずにはいられない。
また、“ロードバイカーの一部が、「シンプルでオシャレ」という理由でブレーキを取り外している”など書く記事も見受けられた。
まったくもって、ピストと普通のロードレーサーが混同されているのである。
都内でバイクメッセンジャーをしているTさんは語る。
「ブレーキなしピストを擁護するつもりはありませんが、あまりに誤解されている現状には辟易しています。このままじゃ普通のロードレーサーすらも規制されかねない。それなのに、ニュースを見ているとピストがなぜブレーキなしで止まれるのかの説明もろくになされていないことが多い。これじゃ一般の人は怖がるの当たり前ですよ。一般の人がイメージする自転車でブレーキなしだとしたら、そりゃ僕らだって怖いですよ(笑)」
Tさん曰く、ピスト=競輪など専門のトラックを走るための競技用自転車は、そもそも一般の自転車と違い、「固定ギア」を採用しているという。
「普通の自転車だと、ペダルを漕ぐのをやめても車輪は動くし自転車は進みますよね。だから逆に漕いでもバックしない。固定ギアの場合はペダルと車輪が直結されていて、足を止めると車輪の回転も止まるんです。だから逆に漕げばバックします。ノーブレーキピストに慣れているアメリカのメッセンジャーなどは、この“足を止めれば車輪も止まる”のを利用して、後輪をわざとスライドさせて減速する“スキッド”という技術を巧みに使っていて、坂の多いサンフランシスコなどでも平気でノーブレーキピストを使ってます」
このように、ブームのルーツはアメリカ。もともとはアメリカの貧乏なメッセンジャーが、パーツ代やメンテナンスにカネがかかるロードレーサーを買えないため、シンプルでメンテナンスも楽なピストを使い始めたのだ。それが次第にストリートカルチャーとリンクしていって、2001年の『PEDAL』のような映画でブームに火がついたのだという。当初は一部の自転車好きのものだったが、ストリートファッション誌などでカリスマ的存在が乗っていることなどがクローズアップされ、「お洒落自転車」として拡大したのがここ数年……というわけなのだ。
「ブームが拡大した今は、固定ギアに慣れていない人まで普通の自転車と同じ気持で乗り始める人も出てきました。それで事故が増えてきた面は否めないと思う。ブレーキなしで乗るのが危険なのは言うまでもありませんが、ブレーキがあっても特殊な自転車であることを認識しないとやっぱり危険なんです」
ブレーキの有無に関わらず危険……というのはどういう点なのだろうか?
「まず、坂を下るとき、脚も止まらず回り続けるわけです。減速するために逆に踏む場合も脚力が必要になるんですね。もし下手に足を止めたら吹っ飛ばされます。また、曲がり角では普通自転車を傾けますが、その時もペダルは回り続ける。傾けたときにペダルが道に引っかかって転倒することもある。それにスキッドだなんだと言っても、やっぱり急には止まれない。さっき話した『PEDAL』にも車に轢かれるメッセンジャーの姿とか映ってますからね……」
要するに「ちゃんとした技術が必要」ということなのだ。
「ただ、きちんと止まれる技術や交通の流れを把握する視野を持たないと危険なのは何もピストやロードレーサーなどスポーツバイクに限った話ではないと思うんです。ことさらスポーツバイクだけ悪者に、しかもロードとピストをごっちゃに語るような報道はどうかと思うんですよ。正直、おばちゃんのママチャリとか電動自転車のほうが危ないなぁってことありますからねぇ……」
取材・文/日刊SPA!取材班 photo by
『ペダル ピストバイク・ムーブメントin NY [DVD]』 気鋭の映画監督、ピーター・サザーランドがニューヨークのバイクメッセンジャーたちの日常を捉えたドキュメンタリー。 |
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