不甲斐ないホンダF1はもう終わり? パワーユニット改良のマシンが今週末ベールを脱ぐ【2015】
開幕前からトラブルが頻発し、泥沼のシーズンを送るマクラーレン・ホンダ。しかし、折り返しとなるハンガリーGPで今季初のダブル入賞を果たし、反撃の狼煙を上げた!
ハンガリーGP決勝直前に、ホンダF1の新井康久総責任者にホンダの“これから”を聞いた。
<インタビュー>新井康久(ホンダF1プロジェクト総責任者)
――シーズン前半戦、ここまで苦労した理由は何ですか?
新井:今のF1はパワーユニットの性能だけは勝てない。空力とマシン全体のパッケージがものすごく重要なんです。だから、大きくて重いパワーユニットは邪魔なわけですよ。それをいかにコンパクトにするか。そのためにレイアウトを工夫して、小さなシルエットで車体に搭載できるようにしたんですが、ぎゅうぎゅう詰めにすると、1000度超える排気の熱がいろんなところに悪さをしてしまう。160馬力くらい出る1リットルのペットボトル大のモーターも発熱がすごい。それをまた狭いところに押し込んでいるわけですから、熱くなって作動しなくなってしまう。
――世界一コンパクトなパワーユニットにチャンレンジしたからこそ、冷却の問題を抱えたわけですね。
新井:ライバルメーカーに比べ圧倒的に小さいと思います。それゆえ前半4戦くらいまでは熱の問題で苦労して、いまようやく熱の問題は解消しました。ここハンガリーの暑さのなかで目いっぱい走っても何も問題なかったので、もう大丈夫です。
――熱以外のトラブルは?
新井:排気系や点火プラグにもトラブルが出ましたが、それもすべて解決しました。ファンの皆さんから見たら「不甲斐ないホンダ」と映るでしょうが、長期的に見て、パワーユニットをいかにコンパクトにするかは、クルマの性能を上げるためには必須条件だった。それをあきらめて熱的にラクにする方向に妥協すれば、将来的な希望がなくなってしまう。トラブル解消に時間がかかりましたが、いまようやく次のステップへ移行しています。
◆スパにアップデートしたパワーユニットを投入!
――その次のステップというのは?
新井:トップチームとのギャップを埋めるためには、どれだけパワーユニットの出力の差を埋められるか。正直言うと、ホンダは4メーカーのうち3番目(メルセデスAMG〉フェラーリ〉ホンダ〉ルノー)です。次のスパ(ベルギーGP)までに頑張りたいと考えています。
――ホンダは改良に使える7つのトークンが残っていますが、それを全部使うんですね?
新井:うーん、ほぼ7つ。スパで大幅なアップデートは決めていますが、いま最終的な確認作業に入っています。全部確認してOKということにしないと、また信頼性の問題で迷惑をかけてしまうことになる。今のところは「ほぼ」という言い方で。どれかはもうちょっと後ろになるかもしれない。ただ、大きくいじるエンジン本体はスパでやらないと、残りのレースの数が減ってきてしまうので、スパで入れるのが一番適切だと判断してやっています。
――7つのトークンすべてエンジン本体の出力アップに使うわけですね。
新井:すべてそのためです。ライバルチームに追いつくために、出力を遜色ないところまで持っていくためです。クルマ全体のパッケージとしては、出力を上げると、例えばタイヤのトラクションは今までより滑りやすくなってしまうので、サスペンションの設定を変えなきゃいけないとか、ほかにもいろんなセッティングがあるので、マクラーレンと一緒にやらないといけない。すぐに速さに結びつくわけではなく、まずはパワーユニット側できちんと出力を上げる。そしてタイヤをうまく使えるようにセッティングをやり直す、という作業が残っています。
――馬でいうと何頭分くらい上がるんですか?
新井:それを言っちゃうと、ライバルに手の内を見せてしまうことになるので(笑)。まあ、結構上げる予定です。
――三桁(100馬力)に届きますか?
新井:三桁上げると突き抜けちゃいますよ(笑)。
――二桁後半ですか?
新井:二桁は上げないと、ドライバーに変わらないと言われてしまいますから。シーズンスタートのオーストラリアGPでは、熱の問題で出力を出そうと思っても出せなかった。それに比べたら驚くくらい上がる予定です。
――ライバルメーカーに驚きを持って迎えられますか?
新井:どうですかね。我々はアップデートの計画を公言していますけど、ヨソもスパのタイミングでやってこないと、後半の9レースに対して効果が出てこない。ただ魔法があるわけではないので、ライバルとはつばぜり合いになると思います。
◆フェラーリの上には行きます!
――アップデートした新しいパワーユニットは何番目に?
新井:目標値を達成できれば、いい勝負ができると思います。(メルセデスAMGとフェラーリの)隙間に入り込みたいと思っているし、そのレベルにまで行かないと勝負にならない。ただ、クルマを速くするためには時間が必要で、少しでもその時間を短縮するために、いち早くスパで投入して、セットアップしていくことになると思います。スパは距離も長く、アップダウンもある非常にタフなサーキットです。そこでクルマもパワーユニットもきちんとセットできれば、後半戦はいい戦いができると思います。
――日本GPも間近に迫まりました。鈴鹿への思いは?
新井:もちろん特別なレースと思っていますから、ぜひ結果を残したい。鈴鹿に向けて何をしなければならないか、今から逆算して、スパ、モンツァ、シンガポールでいろいろ試して鈴鹿につなげたいと考えています。
――鈴鹿に持ち込むパワーユニットが今シーズンの集大成と考えていいですか?
新井:そう考えています。パワーユニットだけでなく、マクラーレンも鈴鹿がどれくらい重要なレースかは彼らもわかっています。マクラーレン・ホンダとしてはシルバーストン同様、鈴鹿に向けて万全な準備をしたい。今は鈴鹿に向けて階段を上がっていくことを想像しながら、気合を入れてやっていますし、その気合をファンの期待に応えられるような結果につなげたい。
◆ドライバー2人もモチベーションは高い!
――HRD Sakura(ホンダF1の開発拠点/栃木県さくら市)では、レーシング魂がボーボー燃えているわけですね。
新井:Sakuraは目いっぱいスパモードでやっています。アップデートの最終確認をスタートすべく、忙しい夏を過ごしています。
――ドライバーはモチベーションを維持できていますか?
新井:2人のドライバーには我々の詳細なデータを含めて開発計画を全部説明して共有しています。彼らが前向きな発言を続けてくれるのはありがたいですね。
――後半戦躍進すれば、Honda is backとか欧州のメディアに言われますね。
新井:復帰のときそう書かれましたら、Honda is really backかな(笑)。日本語でいうと、キターーーじゃないですか(笑)。
――マクラーレン・ホンダの大不振で日本GPを観戦するか決めていない人も多いと聞きます。今年の日本GPが死ぬも生きるもホンダ次第。「いいレースだったね」と余韻に浸りながら帰路に着けますか?
新井:なんで鈴鹿に行かなかったんだろうと思わせるようなレースにしますから。行けばよかったと後悔しますよ。また大口叩いたと言われちゃうかな(苦笑)。とにかく後半戦は必ず巻き返しますので、鈴鹿に足を運んでください。皆さんの期待に応えられるよう、全力で準備します!
取材・文/コンコルド足立 写真/Honda McLaren Getty Images for Honda Motor Co. MOBILITYLAND


- フェルナンド・アロンソ(2005年/2006年チャンピオン)
- ジェンソン・バトン(2009年チャンピオン)

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