更新日:2018年03月12日 21:08
スポーツ

“格闘王”前田日明「『ヤッていいんだよ』というところだけが大きくなりすぎた」――最強レスラー数珠つなぎvol.16

 中学2年生の終わり頃、両親が離婚し、前田日明は父親に引き取られた。父親は家を空けることが多く、わずかばかりの生活費を残しては、ひと月もふた月も帰ってこない。生活は荒んでいった。高校に入るとバイクを乗り回し、気に食わないことがあると手当たり次第、喧嘩をふっかけた。孤独だった。 「プロレスラーになってね、いつも周りに人がいるでしょ。それが嬉しかったんですよ。練習がキツくても、先輩に怒鳴られても、人に構ってもらえるということが嬉しかった」  1984年、新日本プロレスを退団し、新団体・UWFの旗揚げに参加した。UWFが解散すると、新生UWFを引っ張っていくことになった。一筋縄ではいかなかった。しかしなんとしてでも、選手たちを食わせていかなければいけない。なぜならこいつらが、俺の家族だから――。  前田日明は、幼い頃に失われた家族のぬくもりを、UWFの中に見出していた。 【vol.16 前田日明】 “格闘王”前田日明「『ヤッていいんだよ』というところだけが大きくなりすぎた」 ――藤原組長のご指名です。UWFの同志である組長は、前田さんにとってどんな存在ですか。 前田日明(以下、前田):藤原さんてね、うちの死んだ父親に性格がそっくりなんですよ。いいところも悪いところも。気が短くて、いつもカッカしてて、意固地でね。豪快なところがあるかと思ったら、すぐ拗ねる。藤原さんを見ていると、いつも父親のことを思い出すんです。藤原さんからはいろんなことを勉強しましたよ。 ――関節技だったり? 前田:関節技を教えてもらったことは一回もないんですよ。スパーリングを延々とやる中で、自分が覚えていったっていうだけの話です。教えてくれって言っても、絶対に教えてくれないんですよ。他の奴には教えてるのに。ケチでしょ(笑)? そういうところも、父親に似てるというかね。 ――前田さんは小さいとき、どんな子供でしたか? 前田:自分の見ているものが、そのままの形で存在しているのかどうか、不安でしようがない、みたいなね。他人の目に映っているものは、オレの認識と違うかもしれないって考えるとね、孤独でしたよ。 ――繊細で、感受性が豊かだったんですね。 前田:いまでも思うんですよ。パッと目を開くと、いろんなものが見えるじゃないですか。自分の鼻先がチラッと見えて、窓から外を見ているような。そういう感覚は、ほかの人もまったく同じなんだろうか。みんなも同じような認識のもとに生きているんだろうか。そういうことはいまでも。 ――どういうときに感じますか? 前田:たとえば全然記憶がない試合というのがあるんですよ。断片がパチッパチッと写真のように記憶の中にあるだけ。でも実際のビデオを見ると、そういうシーンはない。じゃあ、自分はだれと闘ったの? 自分っていうのは一体だれで、なんなんだろうって。 ――小学生のときに少林寺拳法を始めた理由が「ウルトラマンの仇討ちのため」というのも、感受性が豊かだなと。 前田:あの頃の小学校1、2年生って、みんなそんな感じでしたよ。俺は親友のヒガキくんのことを密かに尊敬しててね。学研の「科学ブック」っていう雑誌が毎月送られてくるんですけど、ヒガキくんはなぜか3号とか6号先のやつを持ってるんです。それは単純に、ヒガキくんのほうが俺より入ったのが早かっただけの話なんですけど、当時はそういうカラクリが分からないから、ヒガキくんはすごい奴だなと尊敬してたんですよね。 “格闘王”前田日明「『ヤッていいんだよ』というところだけが大きくなりすぎた」 あるときヒガキくんに、「アキラくん、俺には秘密があんねん」って言われて。「なになに! だれにも言わへんから教えて!」「じゃあ、指切りげんまんな」って、指切りしたんですよ。そしたら、「俺の頭の中にはな、電子頭脳が入ってんねん」って(笑)。「だれに入れてもうたん!?」って聞いたら、「エイトマンの谷博士に入れてもうたん」と。そういう子がいっぱいいたんですよ。 ――かわいらしい(笑)。 前田:テレビでウルトラマンとかゴジラを見るたびに、「東京はすごいな。毎週、東京タワーが壊されるんや」と思ってましたね。大きくなったら科学捜査隊に入って、ウルトラマンと友だちになろう、みたいな。あるときウルトラマンが大阪にやってきてね、巨大怪獣ゴモラと戦って、大阪城を壊したんです。「壊れた大阪城を見に行こう! なんかの破片が落ちてるかも分からん!」って見に行ったら、なんともなかった(笑)。当時はそんな感じですよ。いまの世の中ではメルヘンの世界にしかいないような、可愛い男の子たちですよ。 ――それでも、実際に少林寺拳法を始めたのはすごいです。 前田:ある日、銭湯の脱衣所に入門者募集のポスターが貼ってあったんです。跳び蹴りしててね、「わあ! ウルトラマンみたいやな!」と思ったんですよ。けど、危ないからって母親に反対されて、道場でも「もうちょっと大きくなったら入れてあげてもいいよ」って言われて。ほんで、父親と母親を説得しながら、小学校4年生のときに始めたんですよね。
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船乗りになるのが夢だった
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尾崎ムギ子/ライター、編集者。リクルート、編集プロダクションを経て、フリー。2015年1月、“飯伏幸太vsヨシヒコ戦”の動画をきっかけにプロレスにのめり込む。初代タイガーマスクこと佐山サトルを応援する「佐山女子会(@sayama_joshi)」発起人。Twitter:@ozaki_mugiko

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前田日明が語るUWF全史 上

再び議論の的となっているUWFについて前田が全てを語る。格闘技プロレスファン待望の前田からの反論。全2巻1984~87年編。

前田日明が語るUWF全史 下

再び議論の的となっているUWFについて前田が全てを語る。格闘技プロレスファン待望の前田からの反論。全2巻1987~91年編。


■THE OUTSIDER 第50戦 ~有明ファイナル~
http://www.rings.co.jp/archives/7234
【開催日】3月11日(日)
【開場時間】14時00分(予定)
【開始時間】15時00分(予定)
【会場】東京・ディファ有明
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