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18年勤めた会社を退社。40歳手前で「フリーランス書店員」になったワケ

「働き方改革」が声高に叫ばれる今、会社に頼らず自らの力で生計を立てるフリーランスが増えている。生涯雇用制度が崩れた昨今、働く人には多くの不安、葛藤があるなかで、あえて独立した人々の意識は? 一つの組織に頼らない生き方を選んだ人々の実態に迫る。
フリーランスの明暗

フリー書店員の久禮亮太さん

40歳目前でチェーン書店を退社。年収は下がるも時間という資産を生かす

 出版業界が構造的な不況に苦しんでいるなか、歩調を揃えるように書店業界も沈み続けている。多くの中小書店が廃業し、ときには大型書店も倒産して死屍累々である。  だがそんな惨状を目の前にしても、「確かに書店業界全体で見れば売り上げは減っています。ですが、小規模な本屋はやりようによっては売り上げを伸ばすことが可能です」と温和な笑顔から満々の闘志を漂わせる男がいる。「おそらく日本で唯一の肩書」と笑うフリーランス書店員の久禮(くれ)亮太さんだ。 「紀伊國屋書店やジュンク堂書店などの大型店は、オーソドックスな書棚づくりをするため、マクロ的な市況に沿った数字になりがち。しかし、100坪くらいまでの小さな書店なら、工夫次第でまだまだ商売として成り立つはずです」  久禮さんは、自身を含め、書店員が身につけるべきプロとしての専門技能を、重視している。 「書店員は、『どうして今その本が売れるのか』『なぜ売れないのか』、一冊一冊その原因を言語化して分析することが大切です。そうすることで多様なお客さまの心を引きつけ、継続的に売れる棚を運営する技術が育つ。僕はそういう技術と考え方を、自店だけじゃなく書店業界の内外のさまざまな場所で発揮してみたくなったんです。それに、書店を業界の外から一度見てみたいと思っていたので」  かくして、約20年間にわたってチェーン書店に勤めていた久禮さんは、40歳を目前にしてフリーとなった。 「最初に手掛けた仕事で5万円をいただきました。カフェを併設した新刊書店のオーナーが、カフェが繁盛して書店に手が回らなくなり、手伝える人を探していたんです。書店店長経験者なのに他の書店や出版社に就職せず、フラフラしている人は僕しかおらず、紹介され棚づくりを手伝うことに。書店員の客観的な視点で選書して棚をつくるとか、ちゃんと売れるように“棚を耕し続ける”とか、僕らには日常レベルのそういうノウハウを他業種のお客さんが求めていることが案外あるんです」  現在はブックカフェ「神楽坂モノガタリ」の書店部門の業務を柱に、熊本県の書店で研修を毎月手掛け、書評執筆の依頼も受ける。
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フリーになって時間という資産が増えた
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