仕事

催涙弾が飛び交う香港民主化デモを撮影した“音楽”カメラマン「恐怖心よりも“知りたい”」

 催涙弾やゴム弾が宙を舞い、発砲音が鳴り響く。目の前では武装した警官隊と若者たちが対峙する。報道カメラマンさえも躊躇してしまうような現場に、音楽業界を中心に活動してきたカメラマンが飛び込んだのは、いったい、なぜか。そこで見出した自分がやるべき意味とは——。
キセキミチコ

写真家・カメラマンのキセキミチコさん

 BRAHMAN、THE YELLOW MONKEY、ソナーポケットなどの有名アーティストのオフィシャル写真をはじめ、“大物たちを撮影している”ことで知られる写真家・カメラマンのキセキミチコさん(40)。
民主化デモ

2019年に香港で行われた民主化デモの様子。写真は『VOICE 香港 2019』より

 2019年7月から“激動の香港”にて、約8か月にわたって滞在しながら撮影した写真集『VOICE 香港 2019』(イースト・プレス)を上梓するが、そのなかには香港で暮らす人々の姿、「逃亡犯条例」改正案を発端に6月から長く続いた抗議デモの様子も間近で収められている。香港警察とデモ隊の闘いが次第に激化していったことは周知の通りだ。 【画像をすべて見る】⇒画像をタップすると次の画像が見られます 

この仕事、“自分じゃなくてもいいのでは?”と疑問だった

 “キセキミチコ”という人物を紹介するうえで、“わかりやすいプロフィール”は冒頭で示したとおりだ。しかし、音楽業界で実績を積み上げる一方で「葛藤も少なくなかった」と話す。 「メジャーなアーティストを撮影していることは事実で、そこを判断材料に仕事をいただくことも多かったのですが、ずっと違和感を覚えていました。“誰を撮ったのか”ではなく“何を撮ったのか”見て欲しいと思っていたので」(キセキさん、以下同)  高級車や腕時計と同様に、いわゆる“ステータス”として周囲からは見られてしまう。勝手なイメージばかりが自分の意思とは無関係に一人歩きする。 「もちろん、プロとしてお金を稼いで食べていくためのビジネスなので、割り切っている部分はあります。ただ、正直に言えば、“その人が写っていればいい”みたいなときには、この仕事、“自分じゃなくてもいいのでは?”と疑問に思うこともありました」  キセキさんは思い悩んだ。そして、改めて“自分の写真”を撮るべく、たびたび香港を訪れるようになる。だが、そもそも写真の道に進んだのはなぜだったのか。そして、“自分の写真”として香港をテーマに選んだ理由とは——。

“帰国子女”でも語学が苦手「手に職をつける必要がある」

 大手銀行に勤務し、海外赴任していた父親。ベルギー、日本、香港、フランス、日本。キセキさんは、世界各地を転々としながら幼少期を過ごした。14歳まで海外で生活していた“帰国子女”。にもかかわらず、語学がまったくできなかった。 「よく語学堪能だと勘違いされるのですが、ぜんぜん喋れなくて。とにかく勉強が苦手だったので、何か手に職をつける必要があると思っていました。そんなときに、世界的な写真家集団『マグナム・フォト』の写真展や『世界報道写真展』に足を運んで。そこで、“1枚の写真の可能性”に驚いたんです」  父親は海外転勤が多かったことから、常に一眼レフカメラを持ち歩いていた。そのため、カメラにはなじみがあったという。 「日芸(日本大学芸術学部)の写真学科に運良く受かったのですが、本気でプロになるつもりもなかったというか……。今こうして写真で生きていることが不思議なのですが、当時は早く結婚してゴロゴロしたいという考えでした(笑)」  本人はそう振り返るが、その後は着実にプロとしての道を歩み始める。
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「修行だと思っていた」
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明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi

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VOICE 香港 2019

「2019年6月から香港で起こったことを忘れないでください」──これは逮捕されたデモ隊の言葉だ。2019年の香港民主化デモの最前線とそこに暮らす人々を撮影した写真家・キセキミチコによる写真集。

※キセキミチコ公式サイトの販売ページはコチラ
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