明暗分かれたカクヤスとやまや。「お酒の宅配業」の勝者はどちらだ
化学メーカーで研究開発を行う傍ら、経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。
『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は両者とも酒類専門の販売店として知られる「カクヤス」と「やまや」の業績について紹介したいと思います。
両者を比較するとコロナ禍のピークではやまやの業績が伸びた一方、カクヤスの売上高は大幅に減少してしまいました。背景には両者が得意とする顧客層の違いがあり、特にカクヤスは外飲み需要の減少に苦しめられたようです。近年における両者の業績推移、方針の違いについて見ていきましょう。
まず、株式会社カクヤスグループについて見ていきましょう。同社は酒類販売を専業とし、首都圏を中心にピンク色が特徴の「なんでも酒やカクヤス」を展開しています。店舗でも販売するほか、物流施設や店舗から飲食店への配送も行っています。感染拡大が本格化する前の2020/3期における売上区分は飲食店向け71%、家庭向け(宅配)15%、家庭向け(店頭)14%となっており、主に業者を対象とする企業です。
コロナ禍では業者メインと体質が大幅な業績悪化に繋がりました。2020/3期から2023/3期の売上高と各売上区分の比率は次の通りです。
【株式会社カクヤス(2020/3期~2023/3期)】
売上高:1,086億円→802億円→855億円→1,150億円
飲食店向け:71%→53%→54%→67%
家庭向け(宅配):15%→24%→24%→18%
家庭向け(店頭):14%→22%→20%→14%
予想通りの展開ですが21/3期は飲み屋業界が大打撃を受けたことでカクヤスの売上も大幅に落ち込みました。この間、巣ごもり需要により家庭向けの需要は大きく伸びましたが、約60億円の増収は飲食店向けにおける約340億円の減少分を補うに至らず、全社業績としては悪化した形です。
翌22/3期は家庭向けの好調が続いたほか、飲食店向けもやや回復したことで増収となりました。なお2021年6月には同社創業以来で初めてテレビCMを放送し、バナナマンを起用したCMでは「ビール1本から無料で配送」を訴求しました。首都圏の一部エリアでは飲食店向けと同様、店舗からの宅配に対応し、それ以外のエリアでは宅急便による発送で対応しているようです。従来の飲食店向けルート配送(第一層)、飲食店向け即日配送(第二層)に加え、家庭向けの即配(第三層)を加えた「三層物流」の方針を掲げています。
23/3期は依然続く堅調な家庭向け需要に加え、飲食店向けの販売が本格的に回復したことで売上高は過去最高を更新しました。以上のように近年の推移を見ると確かに2020年度は打撃をうけましたが、家庭向けの開拓には成功しており、それ以降は飲食店向けの増加でV字回復を遂げた形です。
カクヤス:飲食店向けの激減で苦しんだ
「ビール1本から無料で配送」を訴求
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_
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