東京五輪バブルを期待していない建設現場「赤字になる仕事しか回ってこない」
アベノミクスや東京五輪の決定で、住宅・オフィスビル需要が増え、建設ラッシュに沸いているというニュースをよく聞く。しかし、一方で地方の公共事業では、入札不調が数多く起きている。その原因のひとつが、深刻な建設作業員不足だ。現場ではいったい、何が起きているのか? 末端の土建会社や作業員に徹底取材した!
◆「東京五輪」建設バブルも期待していない現場
アベノミクスで受注増が期待されているビル建設や公共事業で、人手不足が危機的な状況だ。建設会社幹部のT氏(44歳)は、「赤字になる仕事しか回ってこない」と嘆く。
「元請けゼネコンが工事を受注するために、赤字と短工期を競っているので、結果的に適正工事価格で工事業者に対して発注できない。工事業者も仕事がなければ会社が回らないので、赤字でも受注しなくてはいけません。結果、職人への支払い単価を減額するか1人当たりの施工ノルマを上げるかしか方法はない。当社は人工単価を極力変えず、1人当たりの施工ノルマを上げる方法を取りましたが、結果として残業費は未払い。未経験の若い工員を採用して育てる余裕なんかどこにもない」
T氏の会社では昨今、ゼネコンから依頼された工事のいくつかの協力を断った。五輪開催に絡んだ建設バブルも期待していない。
「マスコミは五輪で建築ラッシュになり、好景気になるようなことを言っていますが、スポンサー企業に体力がないので計画の見直しをして規模縮小という話しか耳に入ってこない。一部の首都圏ゼネコンは施工単価を上げて工事業者を囲い始めているようですが、職人の絶対数が少ないので、一瞬だけ景気が良くなったように感じるだけ。長く高い賃金を払えるわけもなく、元に戻ると思います」
公共工事を支える土木業の現場はさらに悲惨だ。
「役所が提示する工事の単価=材料単価で、現実離れしている。特に特殊製品(役所で指定する規格製品)は極端な話、1万円で買えと指定されたものが市場では1万5000円ってことだってある。作業員の賃金は自社で抱えている人間で1万2000~1万5000円だけど、人材派遣会社から借りた人たちは、抜かれて7000~8000円しかもらえない。重機の排ガス規制もどんどん厳しくなり、自社で重機を持ち続けることも経営的にリスク。今後は人材を抱えることもリスクになる」
こう語るのは首都圏の中小土木建設会社社長のZ氏(35歳)。危惧するのは、“29年問題”だ。
「平成29年から、建設作業員に社会保障(年金や健康保険)の加入を義務づけることになった。そこまで払いきれないですよ。もともと公共事業や土木工事は、弁当一つ持ってくれば誰でも日当稼げるって世界。作業員サイドからすると、今まで日当1万円貰っていたのが保険差し引かれてとなると、給料が下がったとしか認識されない。だいたい、50歳や60歳まで年金未払いだった人が、払いたいと思うはずがない。いよいよこの業界も去っていく人が増えますよ」
この29年問題については、工務店を営むM氏(仮名・45歳)も大きな危機感を持つ。
「そもそもこの対策は、社会保障を整えて若手を増やそうという目論見だったんでしょ。でも手取り賃金が減少することは無視されている。会社側も、社会保険費を発注元に諸経費として請求するはずと考えているかもしれませんが、借金を増やし続けて赤字物件を抱える元請けが払うとは思えない」
この現状を見て問いたい。果たして「アベノミクス効果」とは、何を指して言うのだろうか。
※写真はイメージです
― [建設作業員が足りない!]の深刻度【1】 ―
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