「トライアウト」に挑戦した左腕3投手の悲喜こもごも――再びプロ野球のユニフォームに袖を通せる保証はどこにもない
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「数年前のトライアウトを含め、これまでいろんな場面で投げて来ましたけど、今日のマウンドが一番緊張しました。今年はたくさんの先輩たちが引退され、自分も(37歳でのトライアウト参加について)ものすごく悩みましたが、やっぱり悔いは残したくなかったので」ときっぱり答えた加藤は、打者3人を見逃し三振、セカンドゴロ、センターフライと完璧に打ち取った。「いろんな方々にお世話になって、ここまで野球を続けてこれた。自分はあくまでNPBにこだわって野球を続けたい。独立リーグや支配下契約は、頭にありません」
最後の打者を打ち取ると、トレードマークのサングラス姿でベンチに引き上げてきた加藤。地元静岡県清水市(現静岡市清水区)出身のベテランの力投に、5000人を超えたスタンドの観客から大きな拍手が送られた。
◆「たとえ独立リーグでも話を聞きたい」28歳、働き盛りの快投
今年のトライアウト参加者の中心年齢層は26~28歳の働き盛りの男たち。大卒、社会人を経由して2013年に東京ヤクルトスワローズに入団した江村将也は、わずか3シーズンで自由契約の身となってしまったサウスポーだ。プロ初勝利試合を挙げたルーキーイヤーの登板で、前田智徳(当時広島)に死球を与え、骨折させてしまったあの投手といえばピンとくる読者も多いだろう。
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「150kmを出すつもりで強いボールを投げた」と、直球を中心に組み立てた江村は、制球にに多少のバラつきはあったもののMAX142kmの速球を中心に空振り三振、ライトフライ、ファーストファールフライとこちらも打者3人をきれいに片付けた。
「今年は左ヒジを故障してしまいましたが、社会人相手の練習試合でいい感じで投げることができた。今日もまっすぐは指に掛かっていいボールが投げれた。まだまだやれると自分では思っているので、育成枠や独立リーグからの話であっても、僕は聞きたいです」
◆「少し慣れてしまった」34歳、元甲子園優勝投手、3度目の正直
16年前の夏の甲子園、桐生第一高のエースとして全国制覇を成し遂げた左腕が自身3度目となるのトライアウトに挑んでいた。正田樹(34歳)、日本ハム、阪神、台湾、ヤクルト、独立リーグと7球団を渡り歩き、今年は四国アイランドリーグ愛媛でプレーした。転機が訪れるたびトライアウトを受けてきた「ベテラン」だ。
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「みんながまだ野球をやりたいという(トライアウト)独特の雰囲気は変わらなかった」と語りつつも「ただ僕自身、3度目なので少し慣れてしまった感じはありますね(笑)」と穏やかに自分のピッチングを振り返った。
この日の正田は打者3人を2三振を含む3者凡退に抑えた。今年の後半から使い始め「NPB時代には投げていなかった」というフォークが低めに落ち、空振りを奪うなど制球力の良さを見せつけた。
「山本昌さん、岩瀬さん、高津さん(現ヤクルト投手コーチ)の背中を見てきたのが大きい」とあくまで現役にこだわる姿勢を体現してみせた正田、大勢の報道陣に囲まれ、丁寧に質問に答える顔は晴れやかだった。
揃って結果を出した左腕3投手ではあったが、彼らが再びプロ野球のユニフォームに袖を通せる保証はどこにもない。15年目を迎えた悲喜こもごものプロ野球トライアウトは、今年も様々な人間模様を見せてくれた。
<取材・撮影・文/プロ野球トライアウト取材班>
ポストシーズンの風物詩としてすっかり定着した「日本プロ野球12球団合同トライアウトin静岡」が10日、草薙球場で開催された。
2001年に始まったこのトライアウトは今年で15年を迎えた。今回のトライアウトに参加したのは、日本野球機構(NPB)に所属するプロ野球球団から自由契約選手となった投手33人、野手14人の45名。これまでは毎年11月に2度開催されてきたが、今年からは1回限りの開催となった。
今季のプロ野球を象徴する出来事といえば、50歳のレジェンド山本昌(実働32シーズン)や、日本最多出場記録を樹立した44歳の谷繁元信(実働27シーズン、ともに中日)を筆頭に、実績あるベテラン選手たちの引退だった。
◆「NPBにこだわりたい」37歳、最年長の粘投
そんな中、この日の最年長は37歳の加藤康介(阪神)。2000年秋のドラフトで日本大学から逆指名で千葉ロッテに入団したサウスポーは、15年間の現役生活でオリックス、横浜、阪神と4球団を渡り歩いたジャーニーマンだ。投手に与えられたチャンスは、打者3人(カウント0-0から)との一発勝負のみ。時間にして10分足らずの投球に、来季の自分を賭けた。
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