今世紀中に人間の寿命は1000年に!?
人間は1000歳まで生きることができる――そうマジメに主張する人間がいれば、ほとんどの人が「んなアホな」と一笑に付すだろう。だが、この一見バカバカしい主張は、思いのほか現実味を帯びているらしい。そんな、夢溢れる先端長寿科学を紹介するのが『寿命一〇〇〇年: 長命科学の最先端』(ジョナサン・ワイナー・著、鍛原多惠子・訳、早川書房)である。 誰だって長生きはしたいと思うのが、世の常だろう。そんな我々の寿命を2倍にも3倍にも、あるいは好きなだけ延ばせると確信している男――それが本書の主人公、オーブリー・デ・グレイだ。 彼は人間の寿命が500年または1000年になると予想し、100万年という数字までほのめかしている。そして、そんな新人類の時代が50年、ことによると15年ほどで訪れるかもしれないと言うのだ。 老化という分野は、昨今の高齢化社会ともあいまって急速に注目を集めているが、学問としての歴史は比較的浅いのだという。人間の生命は、誕生直後は秩序に溢れているのに、最後には致命的な無秩序に彩られてしまう。この整然さに欠けるという特性ゆえに、整然としたパターンを得意とする科学が注視してこなかったというのも、無理はない気がする。その結果、科学の中でも長らく手つかずの領域となってきたのだ。 この老化というものに対するデ・グレイの認識は、非常にシンプルだ。彼は、老化を医療問題だと考えている。我々はみな、この病気にかかっており、しかもこの病気は必ず死に到るのでとことん取り組むべきだ、という固い信念を持っているのだ。老化とは、基本的に体の細胞にゴミが溜まることで起きるものである。その原因は突き詰めれば、以下の7つのポイントまでに絞り込めると、彼は主張する。 (1)体内の分子が年齢とともに絡みあって硬くなり、分子どうしがあらゆる場所でくっついていくこと (2)年齢とともに起きる細胞内のミトコンドリアの衰え (3)細胞内にたまるゴミ (4)細胞外間隙にたまるゴミ (5)一部の細胞が老いて、ただそこにいるだけで機能を果さない厄介者になること (6)一部の細胞が死んでまわりの細胞に毒素をまき散らすこと (7)私たちの体内細胞でも最悪の「市民」が細胞核の遺伝子に危険な突然変異をもたらすこと これらの問題に対処する術は、これまでには老年学と老年医学という二つのアプローチがあった。ざっくり言うと、老年学はダメージを予防しようとするもの。一方、老年医学者は時間を戻そうとするもの、つまりダメージが病気に変わるのを止めようとするのである。 デ・グレイが取ったのはどちらでもない、第三のアプローチだ。それが彼の呼ぶ「工学」的アプローチというものである。体の細胞にゴミが溜まるという事実に対し、ゴミが出ないようにするのでもなく、ゴミが腐るのを防ぐのでもなく、ただ掃除を行うことによって状態を維持しようとするのだ。このアプローチが特徴的なのは、老化プロセスには直接介入しないという点にある。 誤解のないよう言及しておくと、彼はまだ、この問題を完全に解決したわけではない。そもそも彼は自分自身では実験を行わないのである。ただし、この領域に おいては門外漢のデ・グレイが、戦略という領域にスコープを絞り込むことによって、これまでの科学者とは別の景色を見ることを可能にした――そこに痛快さを感じるのである。それは自動車を設計する能力がなくても、メンテナンスを行うことで長く車に乗り続けることが可能であるということにも非常に近い。 ぶち上げた構想にニヤリとし、解決するためのアプローチに膝を打ち、まだ見ぬ世界に夢を膨らます。様々な感情が、見事なまでにパッケージされている一冊だと思う。「騙されたと思って、読んでみなよ!」という台詞が、これほど似合う本も珍しい。<レビュー/内藤 順(HONZ)> ★このレビューの全文はこちら⇒http://honz.jp/12924
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『寿命一〇〇〇年: 長命科学の最先端』 千年生きれたら何します? ![]() |
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