「幸福な縮小(ハッピーシュリンク)」のススメ
2009年に新卒で入社した大卒者42万9019人のうち、28.8%にあたる12万3582人が3年以内に離職している(厚労省調査)。以前は希望の会社に入れなかったために転職をする者が多かったが、最近は傾向が違ってきているという。
若者の就職動向に詳しいライターの荒川龍さんはこう語る。
「経済成長を目指しても幸せにはなれないということを、身体感覚でわかっている若者が増えてきています。彼らはお金よりも『自分らしく働く』ことを優先するのです」
しかし、正社員になることすら難しい世の中で、「自分らしく働く」なんて誰にでもできることではないのでは?
「5年先の見通しも立たない状況で、正社員だからといって安心していられる時代ではありません。厳しいノルマをこなして競争を勝ち抜きながら、好きでもない仕事を30年以上続けるというのは生やさしいことじゃない。経済成長を前提にした働き方は、今後どんどん厳しいものになってくるでしょう」(荒川)
そこで荒川さんが提唱するのが『幸福な縮小(ハッピーシュリンク)』という生き方だ。
「『経済の縮小(シュリンク)』に引っかけて『ハッピーシュリンク(幸福な縮小)』と呼んでいますが、経済の縮小に合わせて自分の価値観や暮し方をもっとこぢんまりしたものに作り替えるという意味です。日本は少子高齢化に加えて、2008年以降は人口が継続して減少しています。人口が減れば市場(マーケット)も縮むわけですから、経済活動も縮小していかざるをえない。それなのにこれ以上無理して経済成長を目指そうとすれば『うつ病100万人時代』みたいな方向へ行くしかありません。それを避けるには、例えば年収は減っても人の役に立つとか、自分なりのやりがいを見出せる働き方にシフトしていくことも、ハッピーシュリンクのひとつの方法だと思います」(同)
新著『自分を生きる働き方』(学芸出版社)には、ハッピーシュリンクを実践する20代~30代の若者たちが登場する。週休3日のオーガニック居酒屋を始めた百貨店バイヤー、数百億円規模の開発事業から1丁200円の豆腐作りへの転身、建設施工会社を退職して“客を巻き込む”前代未聞のリノベーション事業を開始した自営業者グループ、地方で農業を始めたキャリア官僚夫婦など――。大組織での競争を勝ち抜きながら高収入を得る仕事を辞め、無駄な支出を抑えて、小さな幸せを手作りする働き方を選んだ人々だ。
「しかし、彼らのように急に仕事を辞めて生活していくというのは、誰でも簡単にできることではありません。そこでオススメするのが、休みの日に『稼ぐ』ことを第一の目的としない仕事を試すこと。ふたつの仕事を持つという意味で『デュアルワーク』と呼んでいます。人のためになるとか、知識や技術を得られるとか、自分がやりたいと思うことなら何でもいい。まずは家と会社以外での『もう一つの顔』を作っていく。いったん『稼ぎ』を除外して考えてみると、意外とできることは多いものです。休みの日に映画を見たり旅行に行ったりするのもいいですが、それは『消費』であって『仕事』ではありません。それでは、休日は日々の労働のストレスを解消するだけの場になってしまいます」(同)
荒川さん自身も、3年前から本業とは別の「仕事」を始めた。千葉県内の農地を借りて無農薬の米と大豆を作るようになって変わったという。
「私のような好きなことを仕事にしているフリーランスでも、ついつい『この仕事をやればいくらになるな』など、収入ばかりに重きを置きすぎていたことに気づかされました。仲間と田んぼで泥んこになりながら働くと、頭と身体がバランスよく疲れるので、とてもぐっすり眠れるんですよ。それまで面識がなかった人たちと汗を流して働くことで、学生時代の友人みたいな関係になれたり、田んぼを見て素直に『きれいだな』と思う感受性も新たに得られました。働くことって、こんなにスカッとして、心身を健康にしてくれることなんだな、と。自宅でも野菜の栽培を始め、糠漬けや味噌、梅干しなども作るようになりました。こうした日常の小さな『仕事』を増やすことで安心感を得ることができ、本業のほうにもいい影響が出ています。先の見通しがたたない今だからこそ、『脱経済成長の幸せな働き方』について一緒に考えてもらいたいですね」(同) <取材・文/北村土龍>
【荒川龍】
1963年生まれ。大学卒業後、週刊誌記者を経てフリーに。著書に『「引きこもり」から「社会」へ』(学陽書房)、『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)など。
※3月25日(月)、荒川さんの新著出版記念トークイベント「脱経済成長の幸せな働き方」(19:00~20:30)が、蔦屋書店代官山店で開催予定。著書に登場する20代と40代の自営業者もパネリストとして参加する。
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『自分を生きる働き方: 幸せを手作りする6人のワークシフト』 小さな幸せを手作りする働き方を選んだ人々 ![]() |
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