ライフ

「テラスハウスの一員になろう」――46歳のバツイチおじさんはイケメン&美女集団に溶け込もうとした〈第23話〉

「20歳若返った! いける! さっきよりテラハっぽい!」

シェムリアップのローカルな床屋で髪の毛を黒く染めるバツイチおじさん

夜6時。近くの日本人宿ヤマトゲストハウスのお客や現地でボランティア活動をしている若者など、シェムリアップに住む30人くらいの日本人が続々とテラスハウスに集まってきた。 男女比は6対4で平均年齢は22歳ぐらい。 美女も多いが敵対するイケメンも多い。 やがて、炭に火がつけられバーベキューが開始された。 皆、ビールを片手に楽しそうに笑っている。 俺は真剣な眼差しで辺りをキョロキョロ見回し、可愛い女の子をくまなく探した。 テラハに相応しい可愛い子はいるっちゃいるが、なかなか声をかけるタイミングが見つからない。 気がつくと、そのまま1時間が経過していた。 なんとなく皆ほろ酔いでいい感じに盛り上がっている。 さらにテラハ感が増した感じだ。 俺は宿敵の若いイケメンの動きを観察した。 すると彼らは、自然な感じの素敵な笑顔を振りまいていて、女の子たちもうっとりとその笑顔を見つめている。 「うう…あの笑顔は強い! このままでは負ける!」 俺の本能が危機的状況を察知した。 作戦を立て直すため、トイレに行き、顔を洗い、鏡に写った自分を見た。 そこには、若いイケメンの笑顔の足元にも及ばない、老けたおじさんがいた。 白髪を染めたばかりの、黒髪のおじさんが俺を見つめていた。 「……これ誰?」 「…俺だ」 「これが…俺か」 「そっか」 「そうだよな」 「……」 「…これが現実か」 「…現実って残酷だな」 「…やっぱり…………無理だよな」 なぜ俺はテラハで恋をしようなんて馬鹿げたこと思ったんだろう? なぜ俺は黒髪に染めてまで、テラハに溶け込もうとしたのだろう? くだらない。 馬鹿馬鹿しい。 あきらめよう。 ん・・・・・・? あきらめる? その時、久しぶりに頭の中にスラムダンクの安西先生の言葉が浮かんだ。 「あきらめたら、そこで試合終了ですよ」 「お前はお前、俺は俺」 「俺は誰だ?」 「俺はあきらめの悪い男、後藤隆一郎」 「聞き分けのない奇人、後藤隆一郎」 「もうこれしか残ってねーよ!」 俺はトイレを飛び出した。 そして、美人な関西女子大生2人組にこんな話を持ちかけてみた。 俺 「ねぇ、この近くに、パブストリートってのがあるんだけど、ここ抜け出して2次会にいかない?美味しいカクテルもクラブもあるみたいだよ」 女子二人組 「えー!行きたーい」 俺 「じゃあさ、こっそり抜け出していこうよ」 そう言って女の子2人組と夜の街で飲むことになった。 イケメンが集う場所で戦っても勝ち目がない。 俺は宮本武蔵が大勢と戦う時、1人しか通れない一本道で一対一で戦う戦法を応用した。 イケメンがついて来ないよう、静かに、急いでトゥクトゥクに乗り込み、3人で夜のパブストリートに向かった。 行きのトゥクトゥクの中で、俺は大人な態度でかっこつけ、こう言った。 俺 「シェムリアップは割と安全な街とは言え、ここは海外の夜。調子に乗ってお酒を飲みすぎたり、1人で帰ったりしちゃぁ駄目だよ。何かあったら俺を頼ってね」 女子二人組 「はい! ごっつさんがいると安心ですね」 俺 「…ま、まぁね~(笑)」 女子2人組 「(笑)」 降りる時、得意げに英語でトゥクトゥクドライバーと交渉をし、金額を下げてもらった。 海外も5カ国目。旅慣れしてきている。トゥクトゥクとの交渉も慣れたもんだ。 女子2人組 「ごっつさん、英語も交渉もできるんですね!すごい~」 俺は今日イチの、かっこつけた笑顔を作り、不自然な感じで笑った。 「フィリピン英語学校の先生、学校の仲間達、俺は今、心のから勉強して良かった思う。ありがとう!」
次のページ right-delta
女子大生2人は少し酔っ払ってきて…
1
2
3
4
5
6
7
テキスト アフェリエイト
新Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事
おすすめ記事
Cxense媒体横断誘導枠
余白
Pianoアノニマスアンケート