「テラスハウスの一員になろう」――46歳のバツイチおじさんはイケメン&美女集団に溶け込もうとした〈第23話〉
「…やばい…帰らないと」
そう思い立ち上がろうとした。
頭はクラクラだが、なんとか立ち上がることができた。
睡眠のおかげなのか、千鳥足だがなんとか歩けるようになっていた。
フラフラしながら階段を降り、パブストリートに出た。
ところが、階段で降りたのがやばかった。
頭はさらにぐるぐる回り、意識が何度も飛びかけた。
やばい。やばいやばい。
帰ることができない。
脳裏に行きのトゥクトゥクの中で彼女たちに行ったあの言葉を思い出した。
俺「シェムリアップは割と安全な街とは言え、ここは海外の夜。お酒を飲みすぎたり、1人で帰ったりしちゃぁ駄目だよ。何かあったら俺を頼ってね」
女子二人組「はい!ごっつさんがいると安心ですね」
俺「…ま、まぁね~(笑)」
俺、お酒を飲みすぎてる上に1人で帰ってる。
あんだけ偉そうに言っといて、約束を自ら破ってる。
しかも、ここどこかわからない。
カンボジア?
つーか、ここどこだよ?
日本? 目黒?
やばい。やばすぎる。
かなーり危険。
どうしよう。どうしよう。
パブストリートの派手なネオンが3重にも4重にも見えた。
ポン引きの兄ちゃんたちが弱った俺に近寄っているのがわかった。
野生動物と同じだ。弱ったら食べられる。
俺はポケットの上から財布を握りしめた。
シェムリアップとはいえ、ここは海外。
気を抜いた俺がバカだった。
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
ついに歩けなくなり、街中にへたり込みんだ。
やばい。このまま悪い大人たちに身ぐるみはがされる……。
そして、心の中で「世界の中心で愛を叫ぶ」の森山未來ばりにこう叫んだ。
「助けてください! 助けてください!!」
酩酊する俺の脳内iTunesにセカチューのテーマソングである平井堅の「瞳をとじて」がかかった。
♪~Your love forever
瞳をとじて 君を描くよ それだけでいい
たとえ季節が 僕の心を 置き去りにしても
酔って滲んだネオンがさらに急角度で傾いた。
どうやら道端で倒れこんでしまったようだ。
そのままシェムリアップの夜の街で、俺は一人静かに瞳をとじた――。
その時だった。
「…ごっつさん!」
「…ごっつさん!」
「……え?……夢?」
「…ごっつさん、大丈夫ですか?」
俺は瞳を開けた。
すると、眼前に女子大生2人組が立っていた。
女子二人組 「ごっつさん心配だから戻って来ちゃいまいた」
うぉーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
なんて優しいんだ!
しかし、彼女たちの後ろにはテラハにいたはずのイケメン軍団が立っていた。
イケメン軍団 「ごっつさん、潰れたって聞いたんで助け来ましたよ!」
俺 「…………………………」
イケメンたちは目をキラキラさせ、屈託のない爽やかな顔で笑った。
俺はイケメンが好きになりそうになった。
そして、俺は若者たちの肩を借り、宿に帰った。
いや、正確に言うと、送り届けて貰った。
醜く酔いつぶれた初老のおじさんは、イケメンによって無事に帰還できたのだった。
翌朝、ひどい二日酔いの中、水を飲みにカフェに行くと、昨日助けてくれたテラハ男女が朝食を食べていた。俺はバツが悪そうに伏し目がちにしていると、俺に気づいた女子大生2人組の1人がこう言った。
女子大生① 「ごっつさん、酔っ払いすぎ~」
そのセリフで、全員が大笑いした。
彼らの笑顔を見て、俺も久しぶりに心の底から笑った。
きっと屈託のない笑顔だったと思う。
期せずして、俺は若者たちから屈託のない笑い方を学ぶことができた。
俺は、テラハで過ごした若い友達に心の底から感謝した。
「やっとこれでテラハの住人になれそうな気がするなぁ……」
しかし次の瞬間、俺の淡い期待は即座に瞬殺された。
俺の話が一段落すると、美女たちはまたイケメンの前に座り、うっとりと彼らの笑顔を見ていた。
まぶしいほど屈託のない笑顔で、イケメンと美女たちが談笑している。
そこに俺の居場所はまったくなかった。
ただただまぶしかった。
俺はまた瞳をとじた。
そして、次の国に行くことを固く決意したのだった。
次号予告「テラスハウスで撃沈したボロボロおじさん、6か国目に移動!? というか、無事に入国できるのか!?」を乞うご期待!
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