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ハリル監督は日本サッカーの何に苛立っているのか

ハリルが考える「日本人選手に足りないもの」とは?

 そこで思い浮かべるのが、イングランドのプレミアリーグを観ているときのサポーターの反応だ。彼らはディフェンスに対する称賛を惜しまないのだ。身体を張ったクリアやタックルはもちろんだが、スマートにボールを奪取したDFラインがパスを回し始めたときに、しみじみと深く納得したといった具合で拍手を送るのだ。  ここに日本にはない防御への感性がうかがえる。ただ“守った。点を取られなくてよかった”では意味がないのだ。すぐさま反撃に転じる守備でなければ、評価に値しないのである。
ハリルホジッチと日本サッカーの未来―その指針と論点

『ハリルホジッチと日本サッカーの未来―その指針と論点』(サッカーマガジン編著)

 元世界ヘビー級チャンピオンのジャック・デンプシーは、戦いにおける最高の守りとは「積極的な守備」だとし、 <あらゆる防御技術はカウンターパンチとともに繰り出されるか、少なくとも防御姿勢のすぐ後に効果的な一撃を放てるようなものでなければならない> (Jack Dempsy 『CHMPIONSHIP FIGHTING』 p115 筆者訳)と論じている。  ハリルホジッチが繰り返し「縦に速いサッカー」を求めるのも、切れ目ない防御と攻撃こそが決闘を制する秘訣だからなのだ。  戦術論や最適なフォーメーションを検討する以前に、皆がこの“闘うための”哲学を共有していなければサッカーなど成り立たない。約束事や規律を機能させるのは、思想であり精神なのである。 「日本人選手には能力があります。でも、能力だけではダメなのです」と語るハリルホジッチの目には、サッカーを超えて日本社会全体の抱える問題が見えているはずだ。<TEXT/石黒隆之>
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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