ストーンコールドは全然ベビーフェースっぽくないベビーフェース――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第255回(1997年編)
“ロウ”を観るか“ナイトロ”を観るかは、けっきょくはテイストの問題なのだろう。どちらもリアルタイムで観たいというコアなマニア層にとってはなんとなく迷惑なシチュエーションといえないこともないけれど、WWEとWCWの2大メジャー団体が同日・同時間帯にふたつの生中継番組をぶつけ合うようになったことで、テレビという世間のなかでのプロレスはとりあえずブーム、元気のいいアイテムということになった。
基本的には連続ドラマのようなものだから、だれよりも長く画面に映っているレスラーが主人公である。“ロウ・イズ・ウォー”の基本コンセプトは“生戦争”。ちょっとでもモタモタしたところがあったら、視聴者は容赦なくチャンネルを変えてもうひとつのプロレス番組に移動してしまう。
ストーンコールドの仕事は、とにかく2時間番組“ロウ”をひっかきまわすこと。ハンナ・バーベラの伝説のアニメ『チキチキマシン猛レース』のブラック魔王のような役どころと考えるとわかりやすいかもしれない。
ニックネームのストーンコールドは、石のように冷たいパーソナリティーを表すそのまんまの形容詞。試合をするときのコスチュームは、黒のショートタイツと黒のリングシューズで、衣装らしい衣装は“3:16”のスローガンとドクロのイラストが描かれた黒の革ベストだけ。頭をツルツルに剃っていて、やたらと眼光が鋭い。
ファイトスタイルは殴る、蹴る、エルボーを落とす、ストンピングをぶち込むのくり返しだけれど、ひとつひとつの動作がなんともいえないプロレス的リズムを醸し出している。ふつうにテレビの画面をながめている一般視聴者にとっては、ケンカっぱやくて口の悪いハゲ頭のタフガイ。
もうちょっとディープな次元でプロレスに日常生活の句読点を求めているファン層にとっては、癒しのパワーを持った強い男性像。ストーンコールドとはそういう登場人物である。
いわゆるベビーフェースらしいベビーフェースはウケない時代だったのだろう。この時点でWWE世界ヘビー級王座を保持していたアンダーテイカーはだれがみてもそうとわかる怪奇派で、ショーン・マイケルズは悪ガキが改心しないままオトナになってしまったようなキャラクター。“ヒットマン”ブレット・ハートも理論武装派のヒール道を歩みはじめていた。
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