更新日:2017年03月18日 09:58
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東芝が抱える「中国原発」という爆弾

 もともと安全基準があまりに低すぎた中国では、アメリカでの安全基準見直し以上の混乱を現場にもたらしたという。  中国で建設中の4基以外に新たな受注を獲得できていないことも、WH社にとっては想定外だったはずだ。東芝がWH社を買収・子会社化したのは’06年だが、54億ドルという買収額は当時から「高値掴み」と指摘されていた。それでも買収に踏み切ったのは、中国での事業展開に明るい未来を描いていたからだ。毎日新聞「経済プレミア」編集長で、今月に『東芝消滅』(同社刊)を上梓する今沢真氏は「当時どんな収益計画を立てていたかは公表されておらず、謎だ」としながらも、こう解説する。 「’06年当時、すでに世界では加圧水型が主流になっていた。そこで沸騰水型の技術しか持たない東芝は、原発事業の海外展開のためにはWH社買収が必須と判断したのでしょう。その頃、中国が『今後15年で30基程度建設する』と明言していたことも、この買収を後押ししたはずです」  WH社会長のD・ロデリック氏は最近も「これから数年は毎年8基程度の新設が見込める」と強気な発言をしている(『週刊ダイヤモンド』’16年11月12日号)。果たして詭弁なのか、それとも能天気なのか……。いずれにせよ10年前に受注した原発が1基も完成しないのを見ると、今後、WH社が新規受注する可能性は低いだろう。世界の原発事情に詳しい九州国際大学教授の中野洋一氏もこう話す。 「中国では、2.5世代に位置づけられるCPR1000という国内開発の原子炉が主流。しかし将来的には、第3世代炉の建設技術と知的所有権を確立しながら、海外展開することを考えている。そこで三門原発や海陽原発にはWH社のAP1000を、台山原発にはアレバの欧州加圧水型炉(EPR)を発注し、現時点で中国には建設技術がない第3世代炉の技術を獲得しようとした。川崎重工業やJR東日本が中国に新幹線車両の技術供与をした結果、中国が独自開発技術として特許出願した件があったが、その轍を踏むことになるかもしれない」  つまり、自国市場で海外の原発事業者に儲けさせる考えなど、中国には毛頭なく、東芝・WH社は“下心”を持った中国政府の口車に乗せられたということか。 「国家の威信をかけた原発政策を、日本の技術に頼っているという事実はメンツにも関わるので、中国ではWH社は米企業とだけ報じられ、親会社が東芝ということは伏せられている。そういう態度を見ても、自国の技術が蓄積されるまでの期間限定の“付き合い”だということがわかる」(富坂氏)  米中で計画が滞り、もはやお先真っ暗のWH社は、米破産法を適用する選択肢も浮上している。 「WH社を潰したとしても、『親会社保証』をしている東芝は、約7935億円を支払う義務がある。先日、米原発事業で計上した特別損失7000億円以上のインパクトがある」(今沢氏)
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中国にとってWH社破産は原発技術者の獲得チャンス
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1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

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