更新日:2017年03月18日 09:58
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東芝が抱える「中国原発」という爆弾

中国にとってWH社破産は原発技術者の獲得チャンス

 さらに中国でも、「建設中の4基から途中撤退した場合、6000億~7000億円の賠償を求められるのではないか」(富坂氏)というから、東芝はWH社を破産させたとしても合わせて1兆5000万円ほどの損失は覚悟しなければならないことになる。  かといって、延命させたとしても損失が今後どこまで広がるかは不明だ。東芝は自身でその価値を2兆円程度と算定する半導体部門の売却も視野に入れているが、そもそも2兆円で売れるのかは疑問だし、仮に売れたとしても、半導体事業(HDDを含む)の’16年3月期の売上高は1兆5759億円と、全体の28%を占める東芝の稼ぎ頭だ。半導体事業なき東芝が、順調に再建に向かうとはとても思えないが……。  まさに八方塞がりの東芝・WH社を、中国の原発業界が虎視眈々と狙っているという見方もある。『中国 原発大国への道』(岩波書店)などの著書がある帝京大学の郭四志教授は話す。 「中国が原発強国を目指すうえで、大きな課題となっているのが人材の確保。外国企業から優秀な原発エンジニアのヘッドハンティングを活発に行っている。そうした意味では、WH社や東芝の苦境は、中国の原発産業にとって人材獲得のチャンスといえるでしょう」  中国政府の思惑も交錯するなか、果たして東芝の中国原発事業の全容が明らかになる日は来るのか。

中国事業で巨額損失を出した日本企業!

 中国で火傷を負った日本企業は東芝だけではない。例えば老舗の化学薬品商社・江守HDは中国子会社の不正会計や貸し倒れなどが原因で462億円以上の損失を被り、’15年に経営破綻しているのだ。中国在住のコンサルタント・平岡省吾氏は「日系企業はスタッフの現地化が思うように進んでおらず、中国の商習慣や消費者心理を理解できていない」と原因を指摘する。その他、中国で苦境に立たされている日本企業は以下の通りだ。 ●リクシル 損失(推定) 662億円 買収したドイツ企業の中国子会社で簿外債務が発覚。子会社は’15年に経営破綻し、巨額の損失を計上した ●神戸製鋼所 貸し倒れ 310億円 中国の建機事業で売掛金未回収が発生し、’16年4~12月期連結決算で貸倒引当金などが膨らんだ ●ユニー・ファミリーマートHD 営業赤字 13億円 ’14年に上海に開いたアピタ1号店が、テナントの誘致の遅れなどにより振るわず。中国本土撤退を決めた ●平和堂 純利益 9%減 かつて反日デモ被害に悩んだ平和堂だが、中国での高額品販売が不振で’16年3~11月期の連結決算で減益 取材・文/奥窪優木 写真/AFP=時事 浙江農信
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~

詐欺師や反社、悪事に手を染めた一般人まで群がっていた
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東芝消滅

ベストセラー「東芝不正会計底なしの闇」の第3弾


中国 原発大国への道

福島ショック後も原発増設の国家目標を変えない、知られざる原発大国中国。最新データと現地取材により、その実態と背景に迫る。

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