クリス・ベンワー派閥がWWEに電撃移籍――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第323回(2000年編)
“事件”はリングの上で“ドラマ”に変わる。これが映画か小説だとしたら難解なサスペンスということになるのだろう。
クリス・ベンワー、エディ・ゲレロ、ディーン・マレンコ、ペリー・サタンの4選手のWCW脱退―WWE電撃移籍は、まさに現実とファンタジーの境界線のない実話だった。
日曜の夜に世界チャンピオンになったレスラーが、月曜の夜にはリングから姿を消していた。チャンピオンの名はクリス・ベンワー。1980年代後半から1990年代前半まではワイルド・ペガサスのリングネームで新日本プロレスをホームリングに活躍していた。
2000年1月16日、オハイオ州シンシナティで開催されたWCWのPPV“ソウルド・アウトSouled Out”のメインイベントで、クリスはセッド・ビシャスを下し“空位”になっていたWCW世界ヘビー級王座を獲得した。
ほんの数日前まで、同大会のメインイベントにはWCW世界ヘビー級王者“ヒットマン”ブレット・ハートにS・ビシャスが挑戦する同タイトルマッチがラインナップされていた。
ところが、ブレットは脳しんとうの後遺症によるドクター・ストップを理由に1月第1週の時点で試合出場を正式にキャンセル。WCWフロントはブレットの王座をハク奪し、“ソウルド・アウト”で王座決定戦をおこなうことで事態の収拾を図った。
1.16“ソウルド・アウト”のもうひとつの目玉カードは、クリス対ジェフ・ジャレットの“トリプル・スレット・シアター”になるはずだった。
“トリプル・スレット・シアター”とは3種類のデスマッチを段階的に闘っていく新趣向のゲーム(試合形式)で、クリスとジャレットは(1)ダンジェンズ・ルールス=フォールズ・カウント・エニウェア(2)バンクハウス・ブロール(3)金網マッチの3試合をおこなう予定になっていた。しかし、ここでまた想定外のアクシデントが生じた。
1.10“マンデー・ナイトロ”バッファロー大会で、ジャレットが右足首を負傷。翌日からの試合出場が絶望的となった。結果的に1.16PPV“ソウル・アウト”は売りもののカードを2試合とも失ってしまった。
WCWフロントは王座決定戦の出場選手に第1コンテンダーのビシャスを選出し、その対戦相手としてリック・フレアー、ランディ・サベージの2選手をリストアップ。しかし、“大物”たちはこの交渉に応じなかった。
こうした物理的な緊急事態と時を同じくして、WCW内部では執行部人事をめぐる政治的な問題が発生していた。
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ