ホーガンがWCW電撃退団――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第330回(2000年編)
試合終了のゴングが鳴ると、ホーガンは「こんなことをやってるからWCWはどん底なんだよ!」と怒りのマイク・アピール。
ベルトを手にしてリングを下りると、ドレッシングルームには向かわず、リングコスチュームのままバックステージに待たせていた家族といっしょにアリーナをあとにした。TVカメラがこの光景をアリーナ側の巨大スクリーンに映し出した。
数分後、こんどはルッソー・プロデューサーがリングに上がり「WCW内部の政治的対立構造にはうんざりだ。ホーガンは永久追放とする。あのベルトはホーガンにくれてやる。今夜、ジャレット対ブッカーTのタイトルマッチをおこなう」とコメント。
メインイベント終了後、改めてWCW世界ヘビー級選手権試合がおこなわれることが正式にアナウンスされた。
メインイベントにラインナップされたゴールドバーグ対ナッシュの因縁のシングルマッチは、ナッシュがゴールドバーグを十八番ジャックナイフ(投げっぱなしパワーボム)の体勢にとらえたところでスコット・スタイナーが乱入。試合をぶち壊した。
ゴールドバーグは一撃必殺ジャックハマーでナッシュの巨体をキャンバスにたたきつけ、速攻の3カウントをゲット。突然のヒール路線が物議をかもしていたゴールドバーグが後味の悪いフォール勝ちを収めた。ここにも権力闘争のウミがにじんでいた。
急きょラインナップされたWCW世界ヘビー級選手権は、ホーガンに敗れて王座を失ったはずのジャレットが再びチャンピオンベルトを腰に巻いてリングに登場。王座防衛戦という形でブッカーTと対戦した。
異様な空気のなかでスタートしたタイトルマッチは、“大穴”ブッカーTがシグナチャー・ムーブのブックエンド(ザ・ロックのロックボトムと同じフォームのスラム技)でジャレットから堂々のフォール勝ちをスコアし、WCW世界ヘビー級王座奪取に成功。
しかし、新チャンピオン誕生のワンシーンは、この試合の背景にある“事件性”とその重たい空気がぬぐい切れないなかでの唐突な幕切れにより、感動のフィナーレとはならず、観客のほとんどはこの状況そのものをあまりよく把握できていないようだった。
ホーガンは、この日を最後に6年間在籍したWCWから――契約期間を残したまま――ほんとうに姿を消した。
“月曜TVウォーズ”のエンディング、権力闘争から内部崩壊へのスパイラル、そしてWWEによる買収劇といったひとつの時代の終えんを目撃することなく、ホーガンは滅びゆくメジャー団体WCWからの孤独な脱出を選択したのだった。
※この連載は月~金で毎日更新されます
文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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斎藤文彦
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