「ここは恋愛もSEXも禁止」――46歳のバツイチおじさんはヨガの総本山で煩悩とさらに戦い続けた〈第39話〉
それから朝昼晩のヨガクラスに加え、空いてる時間に柔軟運動を始めた。
数日間それを続けると体がみるみる柔らかくなっていくのがわかった。
「いける!」
すぐに結果が出るのは楽しかった。
そうやって、小さな目標を持ってヨガをやっていくうちに、ヨガにも集中することができた。
体が柔らかくなると、太陽礼拝10個のポーズが自分に納得のいく形でできるようになっていく。
俺は午後だけ基礎クラスから上級者クラスに移った。
上級者クラスは全部のスピードが速い。だが、そのスピードはバスケの練習に似ていて、容易に適応することができた。
ヨガが上達していくと、ヨガの話でるりちゃんやサワと妙に盛り上がった。
少しずつ煩悩が消えていってるように感じた。
ヨガが上達すればするほど、ずっとできなかったヘッドスタンディングにもトライしたくなった。
それから、休み時間をヘッドスタンディングの練習に当てた。
るりちゃんもサワもヘッドスタンディングの練習に協力してくれ、いろいろと教えてくれた。
毎日毎日、空いてる時間はヘッドスタンディングの練習をした。
それから数日後、ついにその日が来た。
るり「ごっつさん、いいですよ。そのままそのまま、綺麗な形で立ってますよ!」
俺「ありがとう、るりちゃん!」
るり「おめでとうございます」
ヘッドスタンディングを成功させるためには、体を『柔』らかくしてから立ち上がるのがコツだった。
もちろん、協力してくれた周りのみんなのおかげだ。
俺にとって、ヨガの先生よりも、日本語で丁寧に教えてくれるるりちゃんの適切なアドバイスが大きかった。
この瞬間、なんとなくアシュラムでの目標が達成できたかのように感じた。
翌朝。
ティータイムでお茶を飲んでると、サワが俺に話しかけてきた。
サワ「ゴトー、アシュラムの後、どうするの?」
俺「いや、決めてないよ」
サワ「ねぇ、一緒にゴアに行かない?」
俺「ゴアってあのヒッピーが集まるので有名なビーチ?」
サワ「うん。私、踊りたくなっちゃった」
二人っきりでビーチ。
なんとも甘い誘惑だ。
俺「いつ行くの?」
サワ「決めてないけど、明後日とか3日後はどう?」
俺「急だねー。ちょっと考えるよ」
翌日はアシュラムの休日で、るりちゃんともう一人の友達と3人で街に買い物に行く約束をしていた。
休日の朝、3人でリキシャに乗り込んだ。ぎゅうぎゅう詰めの後方席でるりちゃんは俺の隣に座った。
インドの道は悪く、かなりガタガタ揺れる。
その時だった。
俺の左ひじに、るりちゃんのおっぱいが、当たった――。
その時、瞑想や修行でずっと押さえ込んでいた俺の煩悩が再び雄叫びをあげた。
「るりちゃんの、おっぱーーーーーーーーーーーーーーい!!」
その雄叫びはジローラモの「オンナーー!」を凌駕するくらいの雄叫びだった。
ふとるりちゃんの横顔を見た。
「やっぱり、やっぱり……めちゃくちゃ可愛うぃぃぃーーーい!」
その後、一緒にトリバンドラムの街でインドの男性が履く「ルンギ」という巻きスカートを買うのを手伝ってもらったり、るりちゃんはインドのお弁当箱を買ったり、楽しくショッピングをし、晩御飯を食べてからアシュラムに戻った。
夜の9時過ぎ、アシュラムの溜まり場に座って俺とるりちゃんは水を飲んでいた。
俺「アシュラムを出た後はどうするの?」
るり「私、コバラムビーチに行こうかなと思ってるんです」
俺「そうなんだ。カニャクマリって知ってる?」
るり「岬のほうでしたっけ?」
俺「うん。ここから2~3時間くらいのとこにあるインド最南端の都市で、アラビア海、インド洋、ベンガル湾、3つの海が交わる場所。ヒンドゥー教の聖地なんだよね」
るり「へぇー」
俺「ヒンドゥー教徒が朝日を見ながら沐浴をする場所らしいよ」
るり「ガンジス川みたいな場所なんですね」
俺「うん。南インドのバラナシ的な場所らしい。俺、そこに行きたいんだけど、良かったら一緒に行かない?」
るり「えー、カニャクマリかー。興味はありますね」
俺「一緒に行こうよ。その後、一緒にコバラムビーチに行こう」
るり「そうですね。うん。いいですよ! 行きましょう。カニャクマリ」
やったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
イエイ、イエイ、イエーーーーーーーーーーーーーーーイ!!
俺「オッケー、じゃあ、そっちのめどがついたら教えて」
よし、もう迷わない。
俺はるりちゃんに決めた。
誘ってくれたサワには本当に申し訳ないけど、もう優柔不断おじさんはアシュラムとともに卒業だ。
不思議なもので、ここアシュラムでヨガの道を邁進すると、るりちゃんへの一本道が見えてきた。
るりちゃんとサワ、二人の女性の間で揺れ動き、一時はおっぱいにも浸食され、煩悩まみれになってしまったが、『柔』な自分を目指してヨガの道に専念することで、自分を取り戻すことができた。
そして、煩悩を捨て去ることで見えてきたもの――。
それは、るりちゃんへの一途な思いだった。
翌日、サワには丁重に断りを入れ、俺は久々の旅支度を始めた。
スリランカであった中国人美女リー以来の、女の子との二人旅。
しかも初恋の時と同じ綿菓子のような甘い匂いを感じるるりちゃんとの旅だ。
アシュラムを旅立つ前夜、俺の胸はドキドキと高鳴っていた。
こんな気持ち、本当に初デートのとき以来だ。
それは純粋なる恋心に他ならなかった。
――と、ここまで書き綴ってきて、ひとつだけ気になることがある。
るりちゃんにだけは、おっぱいを連呼したこのエピソード、できれば読んで欲しくない……。
今更ながら、とても、とても恥ずかしい……。
次号予告『アシュラムを出たバツイチおじさんに恋の女神は微笑むのか? るりちゃんとの恋の結末やいかに!?』を乞うご期待!
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ