「さっきのバンダナの彼、ビリー・グラハムでしたっけ」だって――フミ斎藤のプロレス読本#025【ロード・ウォリアーズ編10】
バー・ホッピングがしたくなったらしい。同じところにずっと座っているよりは10軒くらいハシゴして歩いたほうが遊びに出てきた感じがする。それに、お酒を飲んで楽しそうにしている群集をながめているだけでなんだか楽しい。
はじめのお店の勘定はぼくが持つことにした。ホークとホークといっしょに来た女性にはさきに外で出て待っていてもらい、レジでお金を払おうとしていると、きれいに口ひげを生やした50代くらいの中年男性がこう話しかけてきた。
「さっきのバンダナの彼、スーパースター・ビリー・グラハムでしたっけ? わたしも昔はプロレスが好きでしたよ。いまはあまりテレビでも観なくなりましたけどね」
口ひげさんとの会話を適当に切り上げてお店を出ると、広い通りに出てタクシーを拾ったホークがジェントルマンらしい身のこなしで車のドアをおさえていた。
例の怪しげな女性がひとりで後部座席に乗り込むと、ホークはやさしい笑みをたたえながらタクシーの運転手に1万円札を手渡した。
<なんで? もう帰しちゃうの?>
「ドント・ウォリーDon’t worry。もうひとりいる」
ホークは、いたずらっぽく笑いながらつぶやいた。じつは、ほかの女の子とも会う約束をしていたのだった。
ぼくは、ホークがよれよれのビリー・グラハムとまちがわれてしまったことを口にするのはやめておいた。これからカッコよくナイトクラビングにくり出そうというホークがそんなことを知ったら、気を悪くするに決まってる。夜はまだ浅かった。The night was young.(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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