テリー・ゴーディのディープサウス物語――フミ斎藤のプロレス読本#031【全日本プロレスgaijin編エピソード1】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
メンフィス発―チャタヌガ行きのノースウエスト2849便は、20人乗りの危なっかしいプロペラ機だった。チャタヌガはテネシー州とジョージア州のボーダーラインに位置する人口16万人の小都市。
テリー・ゴーディが住むサディーデイジィーSoddy-Daisyの町は、チャタヌガから25マイルほど北上したところにある。
まるで長距離列車の待合室を思わせる古ぼけた木造建てのバゲージクレームで、ゴーディはぼくを待っていてくれた。12月も終わりだというのに、スウェットシャツ1枚の軽装だ。
このあたりは冬になると長い雨のシーズンがやって来る。でも、雪が降ったりすることはほとんどない。
ゴーディの愛車は、大きな4WDのシボレーだった。空港のすぐ外側からフリーウェイに乗ってしばらく走ると、右手にうっすらと山並みが見えてきた。
「あれがルックアウト・マウンテンだ」とゴーディが説明してくれた。
南北戦争の時代、南軍の兵士たちが隣接する7つの州の様子を偵察するために登った山なのだという。
チャタヌガはテネシーとジョージアの州境の町で、そのまま西に25マイルほど行けばアラバマ州のステートラインにぶつかるし、東に向かって1時間も車を飛ばせばノースカロライナ州にもたどり着く。
テネシー州の北から東を取り囲んでいるケンタッキー、ジョージア、アラバマ、バージニア、南北カロライナの7州がほんとうにあのルックアウト・マウンテンから見渡せるのかどうかはわからない。でも、あの細長い山やまがチャタヌガに住む人びとの自慢――アメリカン・ヒストリーの名所――であることにかわりはない。
走っても走っても、町の中心らしき景色は現れてこない。ゆったりとしたハイウェイ沿いにときおりファーストフードのレストランがあったり、ショッピングモールがあったり、平屋建てのオフィス・ビルが見えてくるだけで、あとは道の両側に森がつづくばかりだ。
セルフサービスのガス・ステーションに停まった。ガソリンを入れたついでに、ゴーディはビール――銘柄はミケロブ――を1ケース買ってきた。
運転席に座ったと同時に茶色のボトルの栓を抜き、エンジンをかけながらそれをぐいぐい飲みはじめた。ガソリン代はちょうど50ドルだった。ずいぶんと燃料を食う車に乗っているものだ。
カーステレオをかけるとMCハマーが流れてきたが、ゴーディはすぐにそれを切った。ぼくも、そうしてくれてよかったと思った。
ここまでカントリーに来たら、やっぱりサザンロックが聴きたくなる。ゴーディがいまでもレナード・スキナードの名曲“フリーバード”にこだわっている意味がなんとなくわかる。
気がつくと、ずいぶん山のなかに入ってきてしまった。昼間だというのに霧が濃くて前方がよく見えないから、ハイビームのライトをつけて走るしかない。
「ヘイ、こりゃあ霧っていうよりもな、雲なんだぜ」といってゴーディは笑った。
“ウェルカム・トゥ・サディーデイジィーWelcome To Soddy-Daisy”というグリーンの看板が見えてからしばらくすると、ゴーディの住むテラス・フォールズ通りにぶつかった。
ちゃんとストリート・ネームがついているといっても、標高3マイルを越す山奥のこの通りに暮らしているのはゴーディ一家とゴーディの姉とその家族だけだ。
山の中腹にゴーディの家が建っていて、そのすぐ隣にお姉さんファミリーの家がある。ゴーディの甥でプロレスラーのリチャード・スリンガーもここに住んでいる。
ゴーディの家族は奥さんのカーニーさんと1歳3カ月になる長女のモレンダちゃんの3人。ゴーディと前妻のあいだにできた子で11歳になる長男のレイくんも、学校が休みになるとお父さんのところに泊まりにくる。ゴーディとカーニーさんのふたりめの子どもはカーニーさんのおなかのなかにいる。
ファミリーがたくさんいると、こんなに山のなかでもにぎやかだ。アンクル・テリーのことが大好きなリチャードは、朝から晩までゴーディの家のほうで時間をつぶしている。
家族はみんな、叔父貴ゴーディのあとを追ってレスリングの道を選んだリチャードのことを誇りに思っているようだ。
家に帰ると、ゴーディはやはり親父くさい顔つきになる。赤ちゃん用のおもちゃでモレンダちゃんをひとしきりあやしたあとは、男の子用のおもちゃを使ってレイくんと真剣に向き合う。そして、カーニーさんに対しては夫としての接し方をする。
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