ファンクスとHBKとECファッキンWが“同室”の空間――フミ斎藤のプロレス読本#129[ECW編エピソード21]
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
「この国のフォールカウントは、アメリカのそれよりもやや遅めになっている」
「へぇー、そうなのかい」
“ハートブレイク・キッド”ショーン・マイケルズは、真剣な顔でトミー・ドリーマーのはなしに耳を傾けていた。
“この国”のレスリングについては、たしかにHBKよりもドリーマーのほうがちょっとだけ詳しい。
「それから場外カウントは“20”だよ。“10”じゃないから気をつけて」
「へぇー、そいつはいいことを聞いた」
HBKとドリーマーは、TVモニターのまえにイスを並べて“勉強会”を開いていた。HBKのすぐよこでは、HBKがサンアントニオから連れてきたふたりの新弟子がひとこともしゃべらずに“気をつけ”の姿勢で立っていた。
外国人選手のドレッシングルームは全部で4部屋、用意されていたが、やっぱりどこかのがたまり場になるのだろう。HBKとその弟子たちはECファッキンWの大部屋でハングアウトしていた。
とびきり不良で、とびきりマイペースなレイヴェンは、HBKのようなとびきりステータスの高いスーパースターとはどういうコミュニケーションを図るのかと思ってその様子を観察していたら、意外にもレイヴェンをレイヴェンとしてリスペクトしていたのはHBKのほうだった。
そういえば、レイヴェンはレイヴェンに変身するまえにジョニー・ポロというリングネームでWWEのリングに上がっていたことがある。
ニューヨーク時代の屈辱の記憶が、はみ出し者のレイヴェンを誕生させた。それが真実なのだろう。
「ワン、ツー、スリーじゃねえんだ。ワン・ブレス(呼吸)、ツー・ブレス、スリーってのがこっちのリズムなんだ。慣れればなんでもねえよ」
レイヴェンが、HBKとドリーマーの会話になんとなく割り込んできた。3人がTVモニターのまえに陣どると、そこが井戸端会議のスペースになった。
フランシーンとボールズ・マホーニーとジャズも自分たちでイスを持ってきておしゃべりの輪に加わった。
それほど大きくないTVモニターにはドリー・ファンク・ジュニア&テリー・ファンクのザ・ファンクス対佐々木嘉則&山崎直彦のタッグマッチが映し出されていた。
ドリーとテリーのドレッシングルームは、アコーディオンカーテンをはさんでこの部屋のすぐとなりだった。“生ける伝説”テリーは気が向けばECWのリングで試合をするけれど、ドリーが動いているところを目撃できるチャンスはそうめったにない。
「ヨーロピアン・アッパーカット(エルボースマッシュ)は3発つづけて打つのが基本」とドリーマーが独り言のようにつぶやいた。ドリーマーの“予習”どおり、ドリーはエルボーを3発つづけて放った。
1
2
⇒連載「プロレス読本」第1話はコチラ
※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス読本」と書いたうえで、お送りください。
この連載の前回記事
【関連キーワードから記事を探す】
この記者は、他にもこんな記事を書いています