Netflixを中心に、個性的なアニメはもっと増える

「B:The Beginning」©Kazuto Nakazawa/Production I.G
――ビジネス面でのポイントはおおむね理解できました。では、Netflix利用者にとって、今回の契約はどんなメリットがあると思いますか?
南:それはもう、「より面白い作品が楽しめる」に尽きますよ。我々はアニメを作る会社なので、今回のお話はどっちかというとクリエイティブ面に大きな魅力的に感じています。というか、ビジネスの側面ばかり取り沙汰されて、むしろ困ってたくらいで(笑)。
石川:たとえば先日、3月2日にProduction I.Gから『B: The Beginning』というNetflixオリジナルアニメの独占配信がスタートしました。このアニメは中澤一登というクリエイターが監督やキャラクターデザイン・総作画監督など、フル稼働でガッツリと関わっている作品です。
彼はクエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』でアニメシークエンスを手掛けたり、リンキン・パークのPVを作ったりと、世界的に高い評価を集めているアニメーター。僕も今作を全話観たけどものすごいクオリティで、これは大ヒット間違いなしだって思いましたよ。あれ、ボンズのほうもなんかやるんだっけ?

「ボンズのほうもなんかやるんだっけ?(笑)」石川氏(右)
南:失敬だなあ、この人は(笑)。
うちも3月9日から『A.I.C.O. Incarnation』というNetflixオリジナルアニメを配信開始しました。この作品は村田和也監督っていうスタジオジブリ出身で、物語の最初から最後までものすごい緻密な計算で作り上げていくシナリオや絵作りに定評があります。
そんな彼がじっくりと時間と予算をかけて作っていますから、ラストに向かってすごくセンセーショナルな物語になっていると思いますね。
石川:ものすごい演出に執着心のある監督だよね。うちも『翠星のガルガンティア』でお世話になったけど、プロじゃないとわからないでしょっていうレベルのところまでリテイクを出すくらい細かいんですよ。まさにジブリの映画作品で育ってきた人らしい緻密な絵作りをする正統派の演出家だと思う。
ただ、そういった作品を作るには予算と体力が必要で、テレビシリーズでそれを実現できる会社ってなかなかないんですよ。その点、Netflixは映画並みの贅沢な制作ができるから、そういった作家性がしっかりと反映される。

「A.I.C.O. Incarnation」© BONES/Project A.I.C.O.
――Netflixだからアニメーターの作家性がより反映できる、という根拠は?
石川:もちろん予算的なメリットもあるけど、スケジュール面が大きいんじゃないですかね。『B: The Beginning』だと3年前から企画を進めていて、シナリオ開発に1年、アニメーション制作に1年、そこから残りをアフレコや編集・ダビングなどのポストプロダクション、海外版の吹替などに充てることができました。
実は今回、中澤監督はラストシーンの着地点を4パターンくらい用意していたんですよ。『B: The Beginning』はサスペンスだから、誰が死んで誰が生き残るのか、彼本人もギリギリまで決めかねていた。
アフレコで収録した声を聴いてアニメの流れをチェックしながら、編集段階で「一番面白いと思う結末」を選び取ることができたんです。これは通常のテレビアニメ制作スケジュールでは絶対にできない。
南:それにテレビと違って、番組1話分の尺が自由に決められるところも大きい。視聴者の心を惹きつけたまま、どこで1話分を切って次の話につなげるのか、コントロールできる幅が広いんです。だからディレクションという意味でも大きなチャレンジができます。
クリエイターが現場で高いモチベーションを保っていい仕事をする、そして視聴者に魅力的なコンテンツになる。そう思えば、作品をご覧になるお客さんにもメリットは大きいんじゃないでしょうか。