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Netflixでアニメビジネスが変わると何が起きる?――石川光久(Production I.G)×南雅彦(ボンズ)

世界190か国以上配信の可能性と課題点

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「Netflixは現場にイニシアチブを取らせてくれた」石川氏

――制作にあたってNetflixから何かオーダーはありましたか? 石川:基本的には現場にイニシアチブを取らせてくれています。ただ、シナリオ開発のときに言われたのは、「1話目からトップギアで走ってくれ」でしたね。お客さんは最初に興味を失ったらもう2度と観てくれないから、とにかく1話目から掴みを最大限にしてほしい、と。そこを強調されたのはすごく覚えてます。 南:うちは今回の場合、すでに制作がある程度進んでいる状況で企画を観ていただいて「一緒に組みましょう」という話になったから、あまり内容面は言われていないですね。ただ、表現的な部分での規制はNetflixもあまり考えてないと思います。  そもそも世界190か国以上に向けて発信するんだから、どの国を意識して作るという事ではありません。それ以上に、我々が作る「日本のアニメーション」を観たいというのが期待されている部分なので、そこをちゃんと最大限に活かした映像を作っていきたいと思います。

海外のファンがスゴかった『カウボーイビバップ』

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「『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』のように海外で長く評価されることもある」石川氏

――アニメ制作会社の社長からご覧になって、「日本のアニメーション」の魅力とは? 南:私はたぶん、アニメーションという映像表現の中に魅力があるんだと考えていますね。実写映画や舞台など、アニメ以外の多くの要素をどんどん吸収して育まれてきたのが日本のアニメーションだと思うんです。なので、海外のカートゥーンのようなアニメとは完全に差別化されて、世界中のファンから高く評価いただいている。 石川:イベントやプロモーションで海外へ行ったときに強く思うのは、色あせない魅力を持った作品に対して長く親しんでくれる、ということでした。日本の場合、継続的にシリーズを発表し続けないと、なかなか中長期にわたって作品が愛され続けることは難しい。  でも、海外だと1本の作品がすごく長く評価されることがあります。うちの『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『BLOOD THE LAST VAMPIRE』なんてそう。南さんだって『カウボーイビバップ』を作ったとき、それを感じたでしょ?
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「A.I.C.O. Incarnation」© BONES/Project A.I.C.O.

南:そうですね。『カウボーイビバップ』は特に海外を意識して作った作品じゃないんですけど、ビバップの映画で アメリカのイベントに行ったときはものすごい反響で。映画が終わったあとに屈強そうな海外ファンの方達に囲まれて怒られるかと思ったら、すごく良かったと目をきらきらさせて握手ぜめに会いました。  あと、うちが2003年に『WOLF’S RAIN』っていうアニメを作ったんですけど、昨年それをアメリカの会社が「Blu-rayを出したいからアップコンバート(高解像度化)のチェックをしてほしい」って相談に来たんですよ。  日本ではDVDしか販売していなかった作品を、アメリカで、しかもお金のかかるアップコンバートをやりたいなんて。自分たちの一生懸命作った作品が海を渡って、10年以上も経ってまだ観たいと言ってくれるんだと思って、すごく幸せな気分になりました。

『WOLF’S RAIN』『スペース☆ダンディ』の続編は?

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「A.I.C.O. Incarnation」© BONES/Project A.I.C.O.

――そういった反響を目の当たりにすると、既存コンテンツをもう一度掘り起こすプランも出てくるのでは? 南:既存のコンテンツって例えば? ――そうですね……。例えば『WOLF’S RAIN』のような。 南:つまり『WOLF’S RAIN』の“続編”っていうこと? もちろんオリジナルとして弊社で持っているコンテンツとかは、どんどん作っていきたいなと思いますよ。だって構想だけならすでにできてるもん(笑)。  『WOLF’S RAIN』だってそうだし、『スペース☆ダンディ』の続編だってストーリーの構想はずーっとありますから。ただ、同じ作品をただやり直す、っていうだけならあまり魅力がないですね。  とにかく、何をやるにしても、まずは今回配信したアニメを世界中のお客さんがどう感じてくれるのか、しっかりと状況を分析していくことで、今後の我々を取り巻く状況は変わってくると思います。 石川:過去の作品がいろいろと評価されるのは、クリエイターにとってもチャンスが広がる良いことで、条件次第ではできる作品も可能性はあると思います。『B: The Beginning』もちゃんと反響があれば僕らも嬉しいし、それならシーズン2を作ろうっていう流れも生まれますから。  日本には小さいけれど良いものを作る制作会社がたくさんあるから、若いクリエイターのみなさんには僕らの様子を見て自分たちもチャンスだと感じてほしいんです。長年アニメ業界にいるけど、こんな新鮮で刺激的な状況ってなかなかないと思うんですよ。 <取材・文/小松良介 撮影/山田耕司(本誌)>
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ボンズの南氏(左)と、Production I.G石川氏(右)

【石川光久(いしかわ・みつひさ)】 Production I.G代表取締役社長。タツノコプロを経て、現在の同社を設立。プロデューサーとして『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』などの制作に関わる 【南雅彦(みなみ・まさひこ)】 ボンズ代表取締役。サンライズ時代にプロデューサーとして『カウボーイビバップ』などを制作。また、ボンズ設立以降も『鋼の錬金術師』などヒット作を数多く手掛ける
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