デフレとバブル、どっちが幸せ? 30年で中年男の働き方はどう変化したか
<’90年代の中年男>賃金削減に不倒神話の崩壊。初めてずくめでオジサンは混乱
バブル崩壊は’92年だが、’90年代前半のオジサンたちに危機感は全くなかったと話すのは前川氏だ。
「働き始めてから賃金は右肩上がりだったので、小石につまずいた程度にしか思わず、すぐに復活するだろうと楽観的でした。むしろ、上司から伝授された体育会系のノリで『バブル崩壊と闘うぞ』って感じで以前よりも一致団結してがむしゃらに働いた」
だが、’97年の北海道拓殖銀行の経営破綻で事態は一変する。
「銀行が貸し渋りと貸し剝がしを開始。企業も人件費に手をつけざるを得ない状況に。この金融危機がトリガーになり、翌年、戦後初の賃金下落を招きます」(中原氏)
不倒神話が崩壊し、賃金カットという実害を初めてこうむった40代男たち。「明日は我が身」と思考停止に陥る人も続出した。
「『変わらなきゃ』と、頭で理解できても、その手段がわからず、結局、従来のやり方で馬車馬のように働くしかなかったんです。当然、生産性は上がらず結果も伴わない。部下からの信頼は低下し、上司からは叱責の毎日。それでも会社にしがみついた」(前川氏)
交遊費を経費で落とすのが難しくなり、飲みニケーションも激減。
「お小遣いが減少し、一回の飲み代は3000円程度と節約ムードが漂います。部下にご馳走できないから誘えず。同僚と割り勘で飲み、傷の舐め合いです」(同)
“こんなはずじゃ”と時代のせいにするしかなかった。
<’00年代の中年男>社会は停滞気味に。クビにならないことが第一優先で縮こまる
ITバブル崩壊で幕開けした’00年代は、勝ち組と負け組が鮮明化した階級社会の時代だ。年間給与は’07~’08年にかけて、40代前半で約50万円、40代後半は約40万円も下落。バブル期に急上昇したお小遣いも’04年に3万円台に突入した。また、40代の持ち家世帯率も、それまで1%だった下落幅が’03年から3%に。預貯金は’02年から徐々に上がり、節約マインドが形成され始めた。その理由を中原氏はこう分析する。
「小泉内閣(’01~’06年)が大なたを振るった不良債権問題ですが、その結果、生じたのが賃金下落とリストラ。ただ、それ以上に’08年のリーマン・ショックに端を発する金融不振。デフレの最中、その後の日本を決定づけた事件と言っていい。この年を境に日本全体に“守りの意識”が強まったんです」
’00年以降、非正規の占める割合が増加。彼らを管理する40代男は、「マネジメントやコミュニケーションが複雑化したことにより心身を疲弊させていく」とは前川氏。
「’00年後半からは今に続く管理職に就けない40代中年男が増加。苦肉の策としてプレーイングマネジャーという役職が生まれ、管理職なのに現場で部下と一緒に競わされた。だが賃金はほとんど上がらず、成長している実感も持てない。自信喪失傾向です」
下流は負け組。落ちたくない。必死に耐え忍んだ。
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