更新日:2023年03月12日 08:31
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「自分は発達障害」と言いたがる人が増えている。精神科医・香山リカさんの懸念

―[大人の発達障害]―
 かつては未成年の問題だと思われてきた発達障害が、「大人の問題」として急速に認知され始めている。メディアでの露出も増え、自分や周りの人間に対して「実はそうなのかも」と思った人もいるのではないか。果たして「大人の発達障害」を抱える社会人たちの現状とはどんなものなのか。生きづらさを抱える大人たちの姿に迫った。 男性

症状はないのに「発達障害になりたい人」が生まれている?

 多くの大人の発達障害の方々もそうであるように、発達障害の認知が進んだとはいえ、カミングアウトするのはまだまだハードルが高い。週刊SPA!が当事者300人に「誰かに相談しているか?」と尋ねた結果でも、やはり半数以上は「恥ずかしくて誰にも相談していない」と答えている。
「発達障害」を誰かに相談しているか?

「発達障害」を誰かに相談しているか?(複数回答可)

 ただ、その一方で病院には発達障害かどうかを確かめようとする人が殺到している。6月に新作『「発達障害」と言いたがる人たち』を上梓した精神科医の香山リカ氏は、そういった悩みを積極的に打ち明ける層のなかに「自分の仕事やプライベートでの問題の原因を、発達障害に求めようとする心理が働いている人たちが生まれているのではないか」と分析する。 「今の発達障害を巡る状況を見ていると、いくつかに分類できると思っています。まずは本当に発達障害で困っている人。次に正確な診断は出ていないけど症状があるグレーゾーンの人。それに加えて、『自分が仕事などでミスをするのは発達障害のせいではないか』と、発達障害に原因を求めたがる人。
発達障害に関心を持つ人のイメージ

発達障害に関心を持つ人のイメージ

 もちろん、なかには本当に発達障害の人もいるでしょうが、そうではないのに信じ込んでしまっている人が生まれていると思います」  実際に香山氏が見聞きした話では、ある女性の患者が精神科にかかった際に「症状は出ていない」と診断を受け、「じゃあ私が片付けができないのは、単にダメな人間だからって言うんですか!」と憤激したケースがあったという。 「彼女たちは発達障害という“名づけ”を求めているんです。それは、もともとの発達障害とは別の次元で、その思いを駆り立てている社会の問題だと考えたほうがいい。今は他人との接し方でも、うまく立ち振る舞える“コミュ力”があまりにも重視されすぎて、『すべてを器用にこなさないといけない』という強迫観念にかられています。社会が求める理想の型にハマらないと、途端に生きづらくなるし、その結果、発達障害が気持ちの落としどころになっている」  香山氏が最も危惧しているのは、「本当に困っている人たち」の姿が見えにくくなることだ。 「実際に障害のある方たちは自己主張が苦手な場合が多いので、“別の問題を抱えた人たち”の声に紛れてしまう危うさがある」
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発達障害グレーゾーン

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