「やられた。財布が、ない!」――世界23か国、2年と8か月も続けた「世界一周花嫁探しの旅」をやめる理由〈第43話〉
【18か国目 フランス】
パリではとんでもない事件が起きてしまいました。旅宿で知り合った日本人女性をパリで一番安くフランス料理を食べられるレストラン『シャルティエ』案内した時のことです。この店はパリに住む友人のテレビのコーディネーターが教えてくれました。
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
女友達「ここのレストラン、安いのにおいしいですね」
俺「だね。この店1896年に創業されたんだって」
女友達「へぇー」
俺「パリの人々に120年以上も変わらぬ味を提供してるってことだね」
聞いた情報をそのまま得意げに話しました。その帰り道でのこと――。
俺「パリの地下鉄はスリが多いから気をつけてね」
女友達「はい」
俺「10代のお洒落な女の子の犯罪グループが危ないらしいよ。見た目は普通の娘たちなんだって」
女友達「こわーい」
こちらも聞いた情報の受け売りです。二人で地下鉄に乗り、手すりに捕まり向き合って話をしていました。スリなどが後ろから近づいてきたら双方で確認できるからです。これは海外生活で覚えたノウハウ。電車を一本乗り継ぎ、宿のあるガブリエルペリ駅で降りました。そして宿に着く直前、売店で水を買おうとした時のことです。
俺「あれ?」
女友達「どうしました?」
俺「あれ? あれ?」
女友達「大丈夫ですか?」
俺「やられた。財布が、ない!」
女友達「えー!」
しかし、スラれた記憶が全くありません。いつ失くしたんだろう?
俺「レストランに戻ってみるわ。落としてるかもしれないし、探してくる。宿に戻ってていいよ」
内心焦ってはいましたが、一応は彼女を気遣う余裕を見せました。
女友達「お金あるんですか?」
俺「……ない」
女友達「少し貸しましょうか?」
俺「……お願いします」
女友達「私も行きますよ」
俺「…………」
ダサい。ダサすぎる。
彼女とレストランに戻り、スタッフを呼び止めました。
俺「財布の落し物ってないですか?」
スタッフ「ないね」
俺「一応チェックしてもらってもいいですか?」
忙しい店だからか、かなり面倒くさそうです。
スタッフ「探したけどないよ」
俺「あるはずです。もう一度探してもらってもいいですか?」
スタッフ「@#$%^&*」
突如フランス語で話だしました。英語が喋れないふりをして煙に巻こうとしています。
「なんだこいつ。むかつく」
すると、横から女友達が綺麗な発音のフランス語を話しだしました。
女友達「とりあえずクロークをチェックしてもらってもいいですか?(フランス語)」
スタッフ「…ウィ(わかりました)」
俺「……あれ??? フランス語喋れるの?」
女友達「少しだけ。私、こっちに留学してるんです」
俺「そ、そうなんだ」
実は彼女、上智大学で仏文学を専攻していて、今はフランスに留学していている才女。日常会話レベルのフランス語はペラペラ。フランス料理も文化によく精通していました。まさに能ある鷹は爪を隠す。その後、堪能なフランス語でレストランのスタッフに何度も確認してもらいましたが財布は見つからず、英語が通じないパリの地下鉄職員、売店の定員とも話をしてくれ、財布を探すのを手伝ってくれました。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
俺「この店1896年に創業されたんだって」
女友達「へぇー」
俺「パリの地下鉄はスリが多いから気をつけてね」
女友達「はい」
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
俺はフランスに住む女の子に、何を得意げに話してたんだろう?
俺はフランスに住む女の子に、街の治安を元気いっぱい語ってたんだろう?
「顔から火が吹き出るほど恥ずかしい」
結局財布は見つかりませんでした。
その時、パリの街で俺の全財産は3ユーロ(約420円)。現金もクレジットカードも銀行カードもすべて盗られてしまいました。もはやカッコつけるどころの話ではない。この後、どう生きるか?です。俺は究極のピンチに追い込まれました。
「いったん旅を中止して、日本に帰ろうかな」
旅が始まって初めて旅の中止と日本への帰国が頭によぎりました。
<近日公開! 感涙の「さよなら、バツイチおじさん・後篇」へつづく>
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