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「40代の幸福度はドン底、50代で上向く」という研究も…中年危機のやり過ごし方

チンパンジーにも“中年の危機”がある

 だが、これこそが“生物として避けて通れない成長の過程”そのものだという。エジンバラ大学のアレキサンダー・ワイス教授によると、チンパンジーにも同様の傾向が見られるからだ。ヒトと同じように、歳を重ねるごとにより内向的になり、争いを避け、感情を抑制し、自らの振る舞いに気をつけるようになるのだという。  ヒトもチンパンジーもこうした変化を受け入れるための準備期間のために、中年期の理由のないイライラを必要としているわけだ。 シニア2 こうして心も身体もシフトチェンジしたときに、にぎやかな幸福から静かな充実へと求めるものが変わるのである。そのとき、人生への満足度は再び上昇へのカーブを描き始める。  では生涯を通じての充実とはどんなものなのだろうか? それは勝ち取るものでも達成するものでもない。いまある人生に「感謝する」(gratitude)態度によって満たされるのだ。

ジタバタしなくても時間がたてば楽になる?

 実際、50歳を迎えたローチからは、「日曜のトークショー」や「デカいプロジェクト」を求める気持ちが次第になくなっていったという。  <何かが突然変わったというわけではない。でも、ある時期を境に、自分のことを批評する自分が消えていくのに気づいたんだ。(中略)毎年少しずつの進歩ではあるけど、できなかったこと、やれそうもないことで責めるよりも、その日すべきことをする自分にもっと満足するようになった感じがしている。>(p.218)  結局のところ、人生という長旅の最終目的は、すべての荷物をおろしたときの安堵感に集約される。立派な成果を上げて他人から認められても、長続きしない満足感が焦りを生む。その最初の気づきが40代から50代にかけてのどん底にやってくるという話なのだ。  本書ではそれを「知恵」と呼んでいる。日々起きることを、あるがまま受け入れる精神状態のことだ。言うまでもなく、緻密な資産運用や賢いキャリアアップなどのハウツーを勉強しても絶対に得られない。  ただ、時間だけが解決してくれる。つまり、腹をくくって年を取るしかないのである。 <文/石黒隆之>
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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