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安田純平氏インタビュー・帰国会見で語り切れなかった真相「拘束中はずっと“無理ゲー”だった」 

わずかな物音をたてることも許されなかった

――こうした理不尽な扱いを安田さんは会見で「ゲーム」と表現しましたが、あれには何か意味はあったのでしょうか? 安田:私を拘束していたグループは、私が「スパイ行為をしている」と、本気で監視していました。私が閉じ込められていた狭い部屋の両隣に見張り役を配置し、24時間ずっと聞き耳を立てていて、私自身も気づかないような、わずかな物音にさえ反応して嫌がらせをしてきました。こうした監視を行った原因としては、私が収容施設で他の囚人と話をしていたこと、「ジャバル・ザウイーヤ」という収容施設のある地名を看守から聞き出してしまったこともあるのではないかと思います。  例えば、囚人たちに食事を与える際に看守が「皿を用意しろ」と指示しているのを私が聞いてその通りに皿を用意すると「盗み聴きした」と嫌がらせが始まりました。それ自体には何の意味もないのです。ですから私は「ゲーム」という言葉を使いました。寝返りするときの音や、鼻炎のために鼻息の音が出ることすら許されなかったので“無理ゲー”でしたが。24時間全力で聞き耳を立てて嫌がらせをするというのは、正気の沙汰とは思えません。内戦が長引く中で、彼らも人間性を失ってしまったのではないでしょうか。 ――あまりに理不尽で、気がおかしくなってきそうですね。 安田:彼らは「お前のことは殺さない」「いずれ帰す」と私に言い続けていました。理不尽だとは思いますが、その「ゲーム」のルールを守って、「それをクリアできたら解放されるのでは」と、とにかく必死でした。彼らは「ゲーム」のルールが何かは具体的には言いません。そのため、何が「ゲーム」のルールなのか、何が禁じられているのか、私は彼らの言動から考え続けました。「私の名前はウマルです。韓国人です」という動画も、収容施設では私は日本人ということも、本名も隠さなければならなかった。その「ゲーム」の中で撮影されたものだったのです。 ――ルールを守れなかったときの嫌がらせとは、どのようなものだったのでしょうか? 安田:他の囚人たちを、私が閉じ込められている部屋の前に連れてきて、そこで見せしめの拷問を行いました。拷問は、堅いホースのようなものでムチのように囚人を打つなどして、大きな叫び声が響いていました。あるいは、何かで囚人をつるし上げ、体をギリギリと締め上げるような音も聞こえました。囚人たちは「ヤッラー、ヤッラー(神よ)」と呻き声をあげていました。私に対しては、直接の拷問は行わなかったのですが、食事の際に、鳥の骨しか与えられなかったり、缶切りもなしに缶詰だけ渡されたりなどの嫌がらせをしてきました。また、夏は暑くて収容施設の中も扇風機がないとサウナのようなのですが、私の部屋の天井にある扇風機を止められたりしました。 ――拘束中に安田さん名義のクレジットカードが使われたことから「拘束は自作自演だった」という主張までしている人もいますが、これについてはいかがでしょう? 安田:私を拘束していたグループのメンバーが、私のクレジットカードを使ったことは事実です。暗証番号を言わされて、カードを使わせてしまったのですが、私としてはそれ以外に選択肢がありませんでした。その後、私が「お前らはギャングなのか!?」と怒ると、彼らも「悪かった、もうカードは使わない」と反省していましたが。 取材・文/志葉 玲 ※『週刊SPA!』11/13発売号より、インタビュー記事の一部を転載 ●安田純平(やすだ じゅんぺい) 1974年埼玉県入間市生まれ。一橋大学社会学部卒業後、信濃毎日新聞に入社。在職中に休暇をとりアフガニスタンやイラク等の取材を行う。2003年に退社、フリージャーナリストとして中東や東南アジア、東日本震災などを取材。2015年6月、シリア取材のためトルコ南部からシリア北西部のイドリブ県に入ったところで武装勢力に拘束され、40か月間シリア国内を転々としながら監禁され続け、2018年10月に解放された。著書に『誰が私を「人質」にしたのか』(PHP研究所)『ルポ 戦場出稼ぎ労働者』(集英社新書)など。11月29日に『シリア拘束 安田純平の40か月』(扶桑社)を上梓の予定。
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シリア拘束 安田純平の40か月

2015年6月に取材のためシリアに入国し、武装勢力に40か月間拘束され2018年10月に解放されたフリージャーナリスト・安田純平。帰国後の11月2日、日本記者クラブ2時間40分にわたる会見を行い、拘束から解放までの体験を事細かに語った。その会見と質疑応答を全文収録。また、本人によるキーワード解説を加え、年表や地図、写真なども加え、さらにわかりやすく説明。巻末の独占インタビューでは、会見後に沸き起こった疑問点にも答える


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表紙の人/ 広瀬アリス

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