まさかの角度のモノマネに不覚にも笑ってしまう
最初こそはまだマシで、カウンターのお姉ちゃんとか店長のモノマネで、全然似ていないのだけどまだわかるものだった、けれどもそのうち意味不明な動きを見せるようになり、どうやら自分の親戚とかのモノマネをしているっぽいセリフが続くようになった。そんなもの分かるわけがない。
これくらいになると、僕ら行列の面々も次第に「笑ってはいけない」という意識が生まれていた。なぜならちょっとでもクスッとしようものなら、しつこいほどそのシリーズがやってくるからだ。親族のモノマネシリーズでクスリとしようものなら、連日の親族モノマネ攻勢という地獄が始まるのだ。
こうして、笑わせたいおっさんと、笑ってはいけない僕たちの闘いの日々が続いた。まさに男の戦いである。そんなる日、異変が起こった。
また列から飛び出したおっさんは直立し、ちょっと猫背な状態で両手をダランとしていた。そのまま何も動かず、何も喋らず。行列の誰もが、エンターテイナー、ついに狂ったかと思った。さすがにおっさんもこれでは伝わらないと思ったのか、ポツリと言った。
「エヴァンゲリオン」
不覚にもブホッと笑ってしまった。
当時、大人気アニメだった新世紀エヴァンゲリオンがパチンコ化され、CR新世紀エヴァンゲリオンとして発売され、人気を博していた。もちろんこの店にも導入されていて、一番ホットな機種としていて扱われていた。それに登場する汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオンの立ち姿を真似した格好だ。
あまりに予想外の角度からきたために、不覚にもブホッとなってしまった。
これは大変なことになってしまった。明日からエヴァ攻勢が始まる。背筋を冷たいものが走った。
案の定、次の日、おっさんはエヴァシリーズのモノマネを始めた。
「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ(新世紀エヴァンゲリオン:碇シンジの名セリフ)」
だとか、
「笑えばいいと思うよ(新世紀エヴァンゲリオン:碇シンジの名セリフ)」
だとか、
「綾波ィィィィィィィィィィィィィィ(新世紀エヴァンゲリオン:碇シンジの名セリフ)」
と攻勢が続いた。しかも、またも僕が綾波ィィィィィィィの棒読みっぷりにブホッっとなってしまったので、しばらくエヴァシリーズが続くことになった。最終的には段ボールで自作したエヴァの肩当てみたいなのを装着して佇んでいたので、もうわけのわからないことになっていた。
そしてついにあの日を迎える。
いつものように意味不明なエヴァモノマネを堪能したのち、店内へと流れ込みCR新世紀エヴァンゲリオンを打っていると、おっさんが隣に座った。
「3年ぶりの対面か……(新世紀エヴァンゲリオン:冬月コウゾウのセリフ)」
最初は何かブツブツ言ってるなーって思っていたのだけど、どうやらむちゃくちゃ微妙で分かりにくいモノマネをしているらしく、まさか行列の間だけじゃなく、こうやって隣で一日中モノマネを聞かされるのかと驚愕していると、とんでもない音が鳴り響いた。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!
パチンコ屋の店内というのは、各台の音楽や、球が動く音でかなりうるさい。その大きな騒音をぶち破るかのようにしてけたたましくベルが鳴り響いた。
「なんだ、なんだ」