更新日:2023年03月20日 11:30
エンタメ

映画『キングダム』は “マンガ実写化でガッカリ”の壁を超えたか?

 筆者は、漫画『キングダム』(著・原泰久、週刊ヤングジャンプ連載)のマニアである。  古代中国、春秋戦国時代の戦いを壮大なスケールで描くこの大ヒット作。単行本(現在、最新46巻まで刊行中)は数えきれないほど繰り返し通読してるし、数話ほどしか登場シーンのない脇役キャラの顔を出されただけで、「政(せい)をかくまう闇商・紫夏(しか)の追っ手に出てきた趙将の冬顔(とうがん)」、「犬戎(けんじゅう)族三兄弟はゴバ、ブネン、トアク」と即答することができる。  それだけに『キングダム』の実写映画化には期待が高まる一方、それ以上の不安があった。

公式HPより

異形のキャラたちを再現できるか?

 現在、日本映画は、漫画を原作にした作品が年間50本近く登場している。中には原作ファンをがっかりさせてしまう映画もあり、自分の好きな作品に関してはそうした落胆を味わいたくない――というのが原作ファンの大半の思いだろう。  映画『キングダム』に対する一番の不安は、やはりキャストの問題。  主人公の信や嬴政(えいせい)の姿形はともかく、王騎(おうき)将軍や山の民のタジフなど、“異形”に描かれている武将たちをうまく再現できるのか――という点。それは、コスプレ的な要素のみならず、超絶武技の応酬についてもいえる。本作の舞台である「王都奪還編」では、軍と軍が争う戦争ではなく、個人戦がメイン。主人公・信と刺客たちとの戦いはどうなるのか? また、二刀流の楊端和(ようたんわ)、王騎、そして敵役の左慈は、一振りで雑兵の首が十は飛ぶという膂力の持ち主。それらの凄みをどう表現するのか。  実際に映画館に足を運び、主観ではあるが、思ったところを率直に綴ってみたい。

山崎賢人、吉沢亮、大沢たかお…まさにハマリ役

 キャスティングについて。主人公・信役の山崎賢人、嬴政・漂(ひょう)を演じた吉沢亮はまさにハマリ役。信と漂が武芸の稽古に明け暮れるシーンは、ほぼ、CGが使われていない。どれほどの殺陣の稽古を積んだのか想像もできないほど、その応酬は目をみはるものがあった。「これだけの武芸の持ち主なら、即、戦場に出て武功を挙げられる」と観る者を納得させるだけの説得力があったのだ。  そして、後の始皇帝・嬴政。反乱を起こした敵役の王弟・成蟜(せいきょう 演/本郷奏多)もそうだが、実年齢が原作よりも、だいぶ青年になりすぎている嫌いがあるものの、嬴政の眼力と成蟜の邪悪さは醸し出されていた。  大沢たかお演じる王騎はどうか。オネェ口調の大将軍・王騎は、原作のキャラが憑依したのかと見紛うほど。こんな常人離れしたキャラを演じきれることが信じられず、特に映画後半では、その演技の一つひとつから目が離せなかった。  一方、「ファルファル(敵を高速で斬りつける際、ファルファルという擬音がなる)」でおなじみの王騎の副官・騰(とう 演/要潤)はというと、これも原作ではかなり個性的な人物なのだが、あえて映画では、没個性の忠実な副官役に徹していた。実際、原作でも「王都奪還編」の騰は、王騎の副官、という以上の人物像が描かれていないこともあり、これは妥当な役回りといえる。  橋本環奈は、ちょこまかと動くおとぼけキャラの河了貂(かりょう・てん)を再現し、長澤まさみの楊端和(よう・たんわ)は、全身を躍動させて敵を斬りふせる、“山界の死王”の強さと威厳、美しさを見事に演じてくれた。
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憎たらしい敵・左慈を怪演
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