更新日:2019年08月21日 17:17
お金

「楽天」に未来はあるか?もはや通販の会社ではない/馬渕磨理子

この数年、楽天で増えてる「のれん」ってなんだ?

 最後に、そんな楽天のここ数年の株価事情をお伝えします。2015年~2016年の楽天は、積極的に企業買収を進めてきました。  楽天のような大手企業が会社を買う理由はさまざまですが、一般的には、成長可能性があるにもかかわらず、自分たちで新規参入するのが難しいケースや、自社にはない強み(海外で展開、専門性ある商品)を持っているときに、買収に踏み切るケースが多いようです。  他には、ライバル企業を仲間にしたいときに買収を進めるというケースもあります。  いわば、大手企業にとっての買収は「一気に攻め込むためのタイムマシーン」。各駅停車でも行けるけど、新幹線を使えばお金はかかるけど早く目的地に着きますよね。  しかし、その企業買収は株主にとってリスクを背中合わせと受け取られ、株価も売られる展開が続きました。  事実、買収を積極的に進めていた2016年度四半期目の楽天の決算は、純利益が55億円と赤字に転落しています。  その時に財務諸表上に計上されるものが「のれん」です。 「のれん」って、なんのことかわかりますか?  簡単に言えば、企業の買収金額と純資産評価額の差額のこと。これは、財務諸表上では資産の位置に入ります。 「のれん」は、企業を買収したときに発生します。純資産200億円の会社を500億円で買収すると、差額の300億円が「のれん」として、貸借対照表に計上されます。 「のれん」は、買収対象会社のブランド価値です。つまり、300億円分だけ、買収対象会社にはブランド価値があるということになります。  2013年から2018年度までの楽天の財務諸表から「のれん」の推移を見てみます。 楽天 楽天有価証券報告書より作成。のれんは、企業買収時の取得原価から、減損損失累計額を除いて測定 【楽天ののれんの推移】 2013年 1078億円 2014年 1422億円 2015年 3636億円 2016年 3694億円 2017年 3584億円 2018年 3568億円  のれんの額が年々増加しているのがひと目でわかりますよね。  この「のれん」、買収した事業がうまくいっていない場合は、PLに減損処理(減損処理とは、M&Aの効果が想定よりも得られない時に行います)を計上しなければならないのです。 楽天 しかし、その後の楽天の業績は順調に回復しています。  2017年度一期目には純利益を黒字に戻し、減損損失計上の額も2017年時点では、ほぼなくなったことから利益を押し上げています。「のれん」の額は年々増加していますが、減損損失は抑えられているのです。  ここから先は、買収事業と、既存の事業とのシナジーが強化されことによる快進撃が期待されます。具体的に言えば、好調な楽天証券や楽天銀行と、買収したフリマアプリ「フリル」とのお金の連携はすぐに思い浮かぶでしょう。  PLとBSを見るだけで、ここまで企業のイメージは変わるもの。  経営者の資質のみに着目するのでもなく、PLとBSという無機質なグラフだけとにらめっこするのでもなく、その両者を観察することで「気になる企業の未来」はクリアになっていくのです。
経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi
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