更新日:2021年08月23日 09:14
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“路上でシャブを買える街”の住人が「覚せい剤だけはやるな」と力説するワケ

あいりん地区の薬物中毒者「覚せい剤だけはやるな」

 同地区の周囲には飯場と呼ばれる、日雇い労働者たちが寝泊まりをする建設会社の寮がいくつかある。筆者はこの飯場で数週間生活をしていた。そのときもやはり、薬物は近い存在であった。寮は7階建てのビルで私は4階の個室で寝泊まりをしていたが、同じフロアに「手洗いハゲ」と周囲から呼ばれるおじさんがいた。彼は現場仕事から寮に帰ると、10分間石けんで手を洗い続け、10分間部屋に戻り、そしてまた10分間手を洗い続ける。このサイクルを寝る時間がくるまで繰り返すのだ。同じフロアの男性によると彼は、「覚せい剤の中毒のせいで腕に虫が這っている感覚があり、それを洗い続けている」とのことだった。
西成

職務質問を受けるあいりん地区の住人

 この男性も昔は同地区で覚せい剤を売りながら自らも愛用する薬物中毒者であり、逮捕歴がある。捕まったときのことをこう振り返る。 「シャブ打ちながら布団で寝とったらな、俺の右腕がないんや。天井を見たら俺の右腕がシャーシャーって走っとるんや。俺の右腕や! って錯乱状態になってな、オカンが怖くなって通報して、気がついたら逮捕されとった」  覚せい剤の怖さがわかる恐ろしいエピソードである。また、こちらは私が親交をもっていたときも覚せい剤を使用していた青山という男性の言葉である。青山は中学生ではじめて覚せい剤を使用し、その後暴力団へ。同地区でも売人の経験がある。覚せい剤取締法違反と傷害で前科9犯。れっきとした薬物中毒者だ。 「俺はヤクザもやったし覚せい剤もやったし、色んな経験してきた。でもこれだけは言うとく。シャブやったらホンマ人間終わってまうで。薬物中毒者の本人が言っとるんや。間違いないやろ?」  逮捕前の田代まさしがメディアで発言していた言葉。覚せい剤を使用していたとなれば、その一部は嘘だったということになるが、「覚せい剤をやってはいけない」という言葉だけは本当だったようだ。<取材・文・撮影/國友公司>
元週刊誌記者、現在フリーライター。日々街を徘徊しながら取材をしている。著書に『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)。Twitter:@onkunion
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