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バス運転手へのクレーム「遅れてるくせにトイレか! 殺すぞ!」に何を思うか/鴻上尚史

バス運転手へのクレームと「社会」と「世間」

路線バス

※写真はイメージです

 しこしこと『地球防衛軍 苦情処理係』の公演を続けています。  ネットを見ていたら、こんなツイートが話題になっていました。 「バスの運転手になって10年以上。一番辛いのはトイレの我慢だな。いろいろあったけどこれより辛いのはない。飲まず食わずよりも出さずの方がはるかにキツイ。客からは『遅れてるくせにトイレか! 殺すぞ!』と怒鳴られたこともある。トイレの我慢ができないって死刑になるほどの罪なのか?」  ツイート主は、「現役バス運転手が守秘義務の限界に挑戦」という人でした。  僕の連載や本を読んでくれている人だと、鴻上は日本を「世間」と「社会」に分けていると知っているでしょう。 「世間」は、あなたと、現在および将来、関係のある人達が作る世界。 「社会」は、あなたと、現在および将来、なんの関係もない人達が作る世界。  で、日本人は、「世間」の感じ方、考え方が身体の芯まで染み込んでいるので、「社会」の人なのに、「世間」の知り合いのように対応してしまいがちだということです。  日本で、モンスター・クレーマーが成長するのは、じつはこれが一番の原因です。  西洋のような「世間」がない世界では、「遅れてるくせにトイレか! 殺すぞ!」と叫ばれた瞬間に、相手は「客」ではなく、ただの失礼な人です。失礼な人には、「ただちに降りろ!」「謝れ!」と返すだけです。  でも、日本だと、「世間」の人の言葉だと勘違いするので「乗客という身内の人からひどいことを言われた。どうしたらいいんだ」と悩んでしまうのです。  乗客は、基本的に「社会」の人です。「世間」の人になるのは、通勤や通学で何年も使い、運転手さんと親しくなり、お互いの名前を知り合った段階です。ただ、顔見知りになり、軽くあいさつする程度では、まだそれは「社会」の人です。  まして、「殺すぞ!」と叫ぶ人は、まったくの「社会」に属する人です。
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「社会」からのレッドなクレームの対処法
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●KOKAMI@network vol.17『地球防衛軍 苦情処理係』公式ページ

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