「売上目標」だけを現場に押しつける上司がダメな理由/アマゾン元幹部に聞く
気がつけば、世界の時価総額ランキング上位は、アメリカと中国のIT産業などに独占されている。たとえばAmazonは世界5位(2019年12月末)。日本企業は、トヨタ自動車が41位で初めて顔を出す。
世界を制覇した海外企業と、凋落した日本企業を分けたものは一体、何なのか? アマゾンジャパン元経営会議メンバーで、『amazonの絶対思考』の著者である星健一さんに、話を聞いた。
――でも、改善しても目標にいかないときもありますよね?
星:もちろん。でも、インプットはすべてできているのに、アウトプットの目標に届かなければ、それは仕方がない。
自分たちでコントロールができないものが、売上や利益。でも、インプットはすべて自分たちがコミットしたもので、できること。それが予算のベースになっているんです。
――なるほど。上から根拠のない売上・利益目標が降りてきて、四苦八苦している日本のビジネスマンは少なくありません。
星:それはもちろん、アマゾンでもあるんですよ。私は経営層にいたので、「売り上げがいってない!」「利益はどうだ!?」とトップから数字を詰められることもありました。
でも、それを私が同じように、部下に全てを伝えることはしません。現場にとって、顧客のエクスペリエンス(体験)を向上させるインプットを重要視している中、そんなことは、二の次ですから。
――うちの上司に聞かせたい!と思う読者が多いはずです。
星:会社が継続するためには、利益と売上を出さなければいけません。それは絶対です。存続できませんから。しかし、数字を細かく見る人と、ビジネスの本質にフォーカスする人を完全に分けているんですね。
ビジネスの本質とはインプットです。インプットとは、アマゾンでは、「何がお客さんにメリットがあるか」を突き詰めること。どちらかというと、売上を達成するためにではなく、インプットを積み重ねたらこういう売上になるという感じで考えているんです。
――そこも日本企業と大きく違いますね。
星:トップダウンで「100億円を110億円にしなさい」という数字がおりてきて、根拠もわからず、とにかく「10億円を気合いと根性で頑張って作り出せ」とかね。私も経験があるのでわかります。でも、それが決して悪いわけではありません。トップが決めることに下が動くというのは、組織マネジメントの形のひとつですから。
ただ、数字のロジックは後付けでもいいので必要です。でないと、振り返り、検証が出来なくなります。
売上・利益は”結果”であって、コントロールできない
――前回の記事では、「失敗を恐れて低い目標しか立てない日本企業は、”チマチマ病”に陥っている」というお話でした。でも、失敗を恐れずに高い目標ばかり掲げられても、正直、現場はつらいです。 星健一氏(以下、星):わかります。日本企業はまず「売上」「利益」という絶対的な目標数字があり、それを達成するために何が必要か、と考える企業が多いのではないでしょうか。 でも、アマゾンは考え方が逆なんです。アマゾンでは売上と利益という目標を「アウトプット」と呼び、あくまでも「結果」として見ています。 そもそも、売上を完全にコントロールすることなんてできません。たとえば、急に中国の輸入税が上がって商品が高くなってお客さんが買わなくなった。あるいは、国内の景況が悪くなって、人々の収入が減ってモノを買わなくなった。暖冬で冬物アパレルや季節家電の需要が小さくなった。いろいろな理由がありますから。 ――コントロールできないですよね!数字は結果に過ぎない、と。 星:一方で、たとえば、お客さんの数を100万人から150万人にするとか、品揃えを1000万点から1200万点にするとか、顧客の利便性を高めるために新たなるサービスをいつ開始するとか、自分たちの努力でできる行動を「インプット」と呼びます。インプットが積み上がり、掛け合わさり、アウトプットが出るわけです。だから、インプットにものすごくフォーカスをするんです。 週次、月次、四半期のレビューでも、売上・利益よりも「インプットが計画どおりに行かないのはなぜなのか?」に注目します。人が足りないのか? 無駄なことはやっていないか? 自動化はできているのか? 想定と何が違ってきているのか? こうした話をして、どんどん改善していきます。現場社員の目標は「インプット=努力でできる行動」
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