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新型肺炎関連の政府の行動は、不測の事態で危機対応ができる国ではないことを露呈した/鈴木涼美

バス

2月13日、中国・武漢市からの帰国者を乗せ「勝浦ホテル三日月」を出るバス。「おつかれ様」「心はひとつ」など、地元住民による労いと励ましの言葉と共に見送られた

ウイルスに包まれたなら/鈴木涼美

 目にうつる全てのことはメッセージと歌ったのはユーミンだが、そういった感性で見ると、新型コロナウイルスに関して目にうつる日本政府のすべての行動は、こういった不測の事態で危機対応ができるような国ではありません、というメッセージを発している。  集団感染が起きたクルーズ船対応には運営会社のある米国を始め世界中から「判断やメッセージが不明瞭(mixed messages)」と非難の声が集まっているし、専門家会議を開いても「なるべく感染しないように気をつけ、具合が悪かったら外出は控えよう」と昔から小児科の張り紙に書いてあるような指摘しか伝わってこない。  同会議は感染拡大を防ぐための行動として、テレワークの促進や不要不急な集まりの自粛検討などを挙げたが、「Go to work」を「会社に行く」と言う日本では、そもそも働き方の多様化やラッシュ緩和のための時差出勤もほとんど根付いていない事情がある。ネット環境が整ったここ20年で従来の出勤スタイルが大転換したのは、リモート勤務型(デリヘル)と個人営業型(パパ活)に移行した性風俗業界だけで、そこには、店舗型に比べて圧倒的に営業しやすい規制の穴があった。  今回の対応としてすでに武田薬品やKDDIなど一部の大企業が在宅勤務などを勧める通知を出してはいるが、今のところ顕著な混雑緩和が見られるのは中国人観光客が激減した百貨店や家電量販店くらいだ。意識を変えるなどと口にしても進まないのであれば、風俗店同様に規制や税制を使って転換に追い込む手もあるが、そこまではっきりした方向性を打ち出したいのかというと些か微妙だ。  横浜港への批判の隙間にマスコミが好んで流すのは、武漢からの帰国者を一時的に受け入れた勝浦市のホテルの英断と市民の美談だが、ホテル休業による同市への客足減少に触れながら、「ビッグひな祭り」などを宣伝していた(2月19日に中止が決定)。  緊急時の協力を惜しまない市民態度は尊ばれるべきだが、震災後の風評被害に苦しんだ福島農家の野菜を積極的に食べようといったノリを彷彿とさせる観光推奨は、なるべく自宅で仕事をしようといった指摘とは矛盾する。SARSを経験した香港や台湾の徹底した態度に比べて日本の危機意識が後手後手の印象なのは、そうした観光産業の落ち込みや経済打撃を覚悟するほど振り切れてはいないからだ。  シンガポール首相は「恐怖はウイルスより殺傷力が高い」と通常の生活を続けるよう呼びかけたが、正解がない中で国のスタンスを示すリーダーシップを発揮する様子は、今のところ我が国のトップにはない。勝浦の住民らは滞在を終えた帰国者らに「おつかれ様でした」「心はひとつ」などのメッセージを書いたボール紙を掲げて見送ったが、国やマスコミの心がひとつにまとまる様子は今のところない。むしろ米国のチャーター便で帰りゆく、クルーズ船の米国人乗客たちに「日本政府の対応が嫌いでも、日本人のことは嫌いにならないで下さい」という垂れ幕でも作ったらどうかと思うが、中国と違い一応普通選挙で政治家を選んでいる手前、そのメッセージすらだいぶ厳しい。 写真/時事通信社 ※週刊SPA!2月25日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。 著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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