明朝体の「駅名標」に早くもブーイングの嵐も…
だが、開業に漕ぎつけるまでにミソもつけた。’18年6月にJR東日本が駅名を公募したところ、8398件のエントリーがあった1位の「高輪」や4265件寄せられ2位となった「芝浦」などを抑えて、わずか36件しか応募のなかった130位の「高輪ゲートウェイ」が正式採用された騒動がそれだ。
当時、この不透明な決定の経緯に疑念の声が噴出。コラムニストの能町みね子さんらが署名サイト「change.org」を通じて駅名撤回を求める署名運動にまで発展した。『私鉄特急の謎 思わず乗ってみたくなる「名・珍列車」大全』(イースト新書Q)など、鉄道関連の著書を多数手掛けてきたジャーナリストの小川裕夫氏が話す。

「JR東日本内部からは、今も『新駅名を気に入っているわけじゃない』という声が聞こえてきますが、今回も開業したばかりの高輪ゲートウェイ駅の駅名標が、明朝体で『ダサすぎる』といった批判の声がすでにあがっています。
明朝体は横のラインが細いので視認性が悪く、ユニバーサルデザインの7原則の一つ、『必要な情報がすぐわかる』という要素に欠けているのは問題だと言わざるを得ません。実際、JR東日本のほかの駅名標の大多数がゴシック体であることからも明らかです。
ただ、怒っているのは一般の人たちで、鉄道ファンは概して、鉄道会社が提示するものについては素直に受け入れるもの……。駅や鉄道の文字を愛している“文字鉄”も『明朝体はむしろ斬新!』と新しいバリエーションを楽しんでいるのではないか(笑)」
新駅の立地には疑問も残る。高輪ゲートウェイ駅は品川駅からわずか900m、田町駅からも1.3kmしか離れていないからだ。なぜJR東日本は、ただでさえ走行間隔が狭い山手線の2つの駅の間に強引に新駅を開設したのか? 小川氏が続ける。
「’27年にJR東海が推し進めるリニア新幹線が開通します。その停車駅の一つである品川駅がJR東海に侵食されることに危機感を覚えたJR東日本は、逆に、品川駅から少し離れたところから“おいしいとこ取り”をしようと大規模な再開発に乗り出した。
背景には、人口減少時代を迎えて、鉄道会社はどこも不動産事業にシフトせざるを得ないという事情があります。’24年に本開業となる新駅は大規模開発プロジェクトの端緒にすぎず、実際、JR東日本はこのエリアのホテルやオフィスビル、商業施設などの開発に、’30年までに約5000億円を投じることになっている。
現在は、車両基地の跡地なのでだだっ広いだけですが、10年後には山手線圏内で最大級のビジネスエリアが出現することになるため、周辺の新築マンションの価格は高止まりしたままです」
品川開発プロジェクト以外にも、三菱地所が手掛ける東京駅周辺エリアをはじめ、五輪選手村を転用する大手デベロッパー11社主導の豊洲・晴海・有明エリアや近年オフィスタウン化が著しい渋谷エリアなど、都内の大規模再開発は目白押しだ。
前出の杉山氏も「移動の窓口として利用するだけでなく、駅に行くことそのものが目的になり得るかどうかが問われることになる」と話すように、JR東日本が、観光スポットの「新聖地」としてどこまで客を呼び込めるかがカギになりそうだ。
コロナ禍終息の兆しが見えず、五輪開催も危ぶまれるなど暗いニュースが続くが、山手線49年ぶりの新駅誕生が、大きなぬかるみにハマった日本経済の新たな起爆剤となることを期待したい。

乗車見込人数の予想は1日約2万3000人が
開業初日となる14日の利用者は午後6時までに約4万人に達したが、初代駅長を務める中村多香さんは記者団の前で「お客様に安心され、親しみやすい駅づくりが必要と考えている」と抱負を語った。23日には、無人コンビニ「TOUCHTO GO」と「スターバックスコーヒー高輪ゲートウェイ駅店」もオープン予定だという。
<取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/山崎 元(本誌)>
※週刊SPA!3月17日発売号より