日本人が描いた香港デモの漫画を、香港人が爆買い
『
漫画香港デモ 激動!200日』は香港の大学に留学する日本人、秋田浩史氏が実際に香港でデモに参加し、昨年6月に起こった香港の200万人デモから11月に行われた民主派圧勝の区議会選挙までの半年間の記録を元に描かれた漫画だ。ニュースではわかりづらい香港デモの背景などを日本の読者に向けて漫画で詳しく解説している。
発売と同時に日本人はもちろん、在日香港人の間で話題となり、SNSで次々と発信された。すると香港からの爆買い現象が起こり、発売3日目でAmazon総合ランキングが19位まで上昇。香港メディアのアップルデイリー、スタンドニュースも速報ニュースで取り上げた。
アグネス・チョウさんのYouTube「周庭チャンネル」より
漫画の中に登場するアグネス・チョウさんも自身のYouTube「周庭チャンネル」で取り上げ、春節で日本を訪れた香港・台湾の旅行客が日本土産として購入するなど、話題となった。そして5月、この
漫画の中国語版が香港の蜂鳥出版社から出版されると、香港人からの歓迎の声がSNSにあふれた。
なぜなら、昨年の香港デモ発生以降、デモ関連の出版物や報道に対して、中国政府の支持を受けた香港政府からの規制が増え、この漫画の中国語版を香港で発売するのは、ほぼ不可能と思われていたからだ。
香港の書店業界でも売り上げの約80%を占める三聯書店など3大チェーンはすべて中国系資本が入っており、中国政府に批判的な書籍や、香港デモ関連の本を取り扱わない。そのため、この漫画は民主派や香港デモを支持する本を取り扱う独立系書店と呼ばれる店舗を中心に販売されることになった。
旺角にある漫画専門店「G.GOAL CLUB」では、日本語版と中国語版が並べて販売された
6月2日の発売日には、旺角にある最大の漫画専門店「G.GOAL CLUB」の店頭に『漫画香港デモ 激動!200日』が並べられると同時に、予約した客でレジに人だかりができた。日本の漫画やアニメ好きな若者による爆買いが起きたのだ。発売5日で香港の独立書店では、同書はほぼ売り切れになって増刷がかかった。
しかし、この漫画を国安法が直撃する。
6月30日に施行された香港国家安全維持法だが、翌日7月1日の香港返還記念日デモに集まった1万人を超えるデモ参加者にも容赦ない取り締まりが行われ、300人以上が逮捕された。その中の4人に初めて国安法が適用されデモ支持者に衝撃が走った。その中の1人はカバンの中に「光復香港 時代革命(香港を取り戻せ、革命の時代だ)」と書かれた旗が入っていただけで、国安法の取締対象になり逮捕された。
「光復香港 時代革命」のスローガンは毎回デモの現場で掲げられていた(5月24日、国安法反対デモ)
香港政府は「光復香港 時代革命」を分離主義や政権転覆のスローガンとし、国安法下では取締対象となる旨を発表した。過剰反応とも思える取り締まりだが、雨傘運動のリーダーの一人、ジョシュア・ウォン(黄之峰)氏ら民主運動家の書籍が香港の公共図書館から撤去されるなど、国案法による言論の取り締まりが次々に実行され、締め付けは厳しくなっていった。
いくつかの独立書店でも『漫画香港デモ 激動!200日』の扱いに変化が起き始めた。この漫画の裏表紙にはデモのスローガンである「光復香港 時代革命」と大きく印刷されているからだ。