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「コロナで、売れない芸人のバイトまでなくなった」弱小芸能プロの苦悩

 ワクチンの開発に遅れも出る中、秋冬の到来で感染第3波も警戒される新型コロナウイルス。夏までなんとか持ちこたえてきた零細企業や個人事業主も、そろそろ我慢の限界が近づいている。 「経済死」の危機が迫る経営者、従業員、フリーターたちの苦悩や不安を少しでも和らげる方法はないのか? そこで、コロナで窮地に陥った業界関係者を取材。著書『コロナ大不況で「経済死」しないための本』(扶桑社刊)を上梓したばかりの企業再生ドクター・大和竜一氏に苦境や困難からの脱出法を訊いた。
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弱小芸能プロ・Oさん(50代)地方営業消滅で月の売上300万円が蒸発

 小さな芸能プロダクションを経営するOさん(50代男性)。所属しているのは、さほどメジャーとはいえないモノマネタレントやお笑いタレントたちだ。  今年、コロナショックが起きるまでは、それなりに堅実経営で推移していた、と語るOさん。 「ウチあたりのタレントだと、テレビなんかに呼ばれることはあまりないけど、地方営業などはそれなりにあるんです。特にモノマネ系は月に10本以上も珍しくない。事務所によって、芸人との取り分は違うとして、ウチは良心的に事務所:芸人=4:6でやってます。それでも月50万円から100万円の売り上げのある芸人が2~3人いれば、月々の総売上は300~400万円。社員2人で、どうにかこうにか、会社を維持できたんですが…」  しかも、20年以上、業界にいたOさんならではの副収入もある。それが「ブッキング」。イベントを開催予定で、ちょうどいい出演者を探している団体からの依頼で、知り合いの事務所に声をかけ、条件の合う芸人を見つけて団体に紹介する。いわば「仲介業」。この収入が月に数十万円になることもあったという。ところが、ほぼすべてがコロナショックで吹き飛んでしまった。  ショックを実感したのは2月末だった。 「どこの事務所もそうでしょうが、ウチも月1回、事務所主催の定例ライブをやるんです。2月中旬くらいまではまだ、みんな開いていた。ところが2月末になって、ほとんど将棋倒しみたいに、バタバタと中止になっていったんです。『あ、こりゃヤベェ』となりました」  

M-1クラスの芸人なら月3000万円の収入減

 決定的ともいえたのが、3月下旬の志村けんさんの死だった、と振り返る。  世間の空気が「これはお笑いどころじゃない」となって、残っていた地方営業も次々にキャンセル。当然、ブッキングの収入もなし。緊急事態宣言が発令された4月上旬には、ほぼ売上ゼロになってしまった。 「まぁ、M-1あたりで優勝したような芸人の場合、1本100万円でも月30本程度は営業があるもの。つまり、月の営業売り上げ3000万円が一挙にパーですから。それに比べれば、弱小芸人ばかりを抱えるわが社の被害は少ない、と自分を慰めるしかありません」と自嘲気味に笑う。  7月くらいから、ようやくボチボチと活動を再開した。観客は入れず、チケットを売ってのリモートライブなどもスタートさせたものの、一枚1500円でお客さんが数十人では、とてもビジネスにはならない。  YouTubeでの配信といっても、もはや過当競争もいいところで、ほんの一握りの人気者を除けば、小遣い稼ぎにすらならない。やはり、どんなお笑い系芸能事務所にとっても、いまだにナマライブと営業が柱なのだ。
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売れない芸人はもっと悲惨
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