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ラブホは家計節約の救世主。500万円を費やした男が断言する/文筆家・古谷経衡

ビジネスホテルはビデオ視聴が有料

 また、これ以上の節約は、「近代化改装を施されたラブホ」という前提があるものの、VOD(ビデオオンデマンド)の無料視聴である。シティホテル・ビジネスホテルでは、必ず1000円で有料放送視聴のカードを求めることによってVODを視聴できることになっている。  過日、私が泊まった某ビジネスホテルですわ映画を観たくなったので、1000円札を自販機に入れて視聴カードを求めたところ、有料放送で映されたのは陳腐なアダルトチャンネルが2局のみで、映画チャンネルが無かった。  私は基本的に局部にモザイクが入っている後進的な日本のアダルトビデオでは性的な興奮をまったく覚えないので、海外のアダルト動画を見ることにしており、日本国内流通のそれは決して見ないのであるが、1000円払ってモザイク満載のドメスティック向きアダルトチャンネルが2局だけというのは甚だしく興が削がれる。わたしはすぐさまフロントに抗議した。 「有料放送カードを1000円で買ったが、実際には陳腐なアダルトチャンネル2局しか映らない。モザイクが入ったアダルト番組を見たいからカードを買ったのではなく、私が見たかったのは映画チャンネルだ。ホテルの約款にはその説明は無かったのであるから、この1000円の返金を要求する」

ラブホの無料VODの優秀さ

 するとフロント応接係は「返金には応じられない」の一点張り。私はこの対応に不服なので、現在代理人弁護士を立てて簡易裁判所に提訴を準備中である――というのは嘘だが、ラブホにはこういう心配がない。そもそもVODが導入されているラブホはすべて宿泊代金、滞在代金の中にVOD代金が含まれており、別途料金が必要な場合は存在しないからである。だからこの時点でラブホを使えば1000円の節約になる。  これに加えて、導入しているVODの種別にもよるが、基本的にラブホのVODは邦画・洋画を問わずオンデマンドで最新作が配信されている。私など、ラブホに18時間滞在するとしたら、まず2時間の洋画を5本は流す。この5本はほぼすべて新作なので、レンタルビデオ店やオンデマンドで個別に購入すると、1作に付き500円として、5本だと2500円になる。これが無料という事は実に2500円の節約である。
高すぎる駐車場

ラブホのメッカ、渋谷・円山町近くの有料駐車場。1時間1500円という高すぎる料金設定(担当編集撮影)

都市部の駐車場が無料…

 さらに重要なのは、本連載でも繰り返し述べているように、ラブホにおける駐車場の扱いである。ラブホはアベックが車で来館することを概ね前提としているので、よほどの例外が無い限り都心の一等地でも駐車場がタダである。しかし一般のシティホテルやビジネスホテルは、東京都心の安い物件でも1泊2000円~3000円、高いと4000円が宿泊代金とは別途に請求される。クルマ族にとって、この出費は大きい。  コロナ禍に於いて、人との接触を減らしドア・トゥー・ドアで移動できる自家用車の利便性が再評価されているが、こういった封建的なビジネスホテルとは違い、ラブホは駐車場料金すらも宿泊・滞在料金に含まれているので、少なくとも2000円が節約できる。  さてこうした事情を勘案してみると、一泊額面5000円のビジネスホテルに車込みで泊まると、P代金(3000円とする)、VOD代(1000円)、化粧水などのアメニティ代(500円)で結局は9500円払うことになる。要するに一万円である。  これに比して、ラブホは一泊額面7500円なら2000円安く、サービスタイムで5000円なら実に4500円の節約になる。こうなるとほぼ半額という計算になる。家計所得が漸減し、プロレタリアートの可処分所得がますます汲々とする中、家計節約を第一に考えるならラブホ逗留が第一選択といえよう。

「いかがわしい」と斬って捨てるな

 なぜこのような節約術が喧伝されないのかはなはだ遺憾であるが、実にその答えはひとつしかない。「ラブホ利用はいかがわしい」という固定観念が社会の中に蔓延しているからである。  つまりラブホ利用がいくら安くとも、いくら節約になろうとも「ラブホ利用に抵抗がある」という層が一定、この国にはいるのである。  その証拠に、本連載第23回で述べた通り、お上の進める「Go To トラベル」事業からは、風俗営業法に則るラブホ(俗に4号ホテル)はその対象外として排除され、同法で規定されるラブホを経営する事業者にはいくらコロナ禍で売り上げが減っても「風俗事業者だから」という理屈で、持続化給付金の給付対象外として差別されているのである。甚だしい憲法違反が国家権力によって平然と行われているのである。  しかしそういった封建的発想からは何の芽も生まれない。いまこそそういった差別的かつ封建的因習を打破するときがきた。ラブホが日常の中に融合し、コンクリートジャングルにおけるつかの間のオアシス、まるで憩いの公共空間として機能する――。そんな新時代に適合した新しい価値観への刷新が、いま我々に求められているのである。
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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