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佐々木朗希が書いた今年の漢字「発」に込めた想いとは?

周囲からの注目による重圧も受け入れ、自分を見失わず

「今年の一字」を発表する佐々木朗希

今年に向けた「一字」を発表した佐々木朗希。その意味とは?

 ふと海が眺めたくなった。だから日が沈み、暗闇が広がる場所に佐々木朗希投手はいた。マリーンズの本拠地ZOZOマリンスタジアムのすぐ近くの海だ。東京湾が広がり、その向こうには東京の夜景が広がっていた。東京スカイツリーも、かすかではあるが見えた。 「ボク、結構こういう景色を見ているのが好きなんですよね。いいですよね。夜景って」  ルーキーイヤーを静かに振り返るように、誰もいない静かな場所でただ夜景を見ている時間が過ぎた。  思えば昨年はずっとメディアに注目され、追われた一年だった。1月の自主トレ。2月の石垣島での春季キャンプ。キャッチボールをしているだけで騒がれ、ブルペンに入ると周囲は人で溢れ返った。  キャンプを打ち上げてからも今後、エースとなる素材として一軍の流れ、雰囲気を知ってもらうために一軍に帯同しての調整を続けた。練習試合で行く先々でブルペンに入ると相手チームの選手まで見学に来るほどの注目を集めた。まだ18歳の若者は誰もが感じたことがないような重圧を背負っているようにも見えた。ただ本人はそれをすべて受け入れているようだった。 「プロ野球選手である以上、発信してもらうこと、そして自分の口から発信することはとても大事な役割、義務だと思っていますし、見られている自覚をもって日々、取り組んできたので、大変という感覚はありませんでした」  シーズンオフに“令和の怪物”と言われ続けた若者はそう口にした。高校時代から注目を一身に浴びてきた中で、徐々に培われてきた自分自身の立ち位置だった。  だからメディアからデビューはまだかまだかと急かされるように注目を浴びる中でも自分を見失うことはなかった。体力作りと肉体強化を最優先とするチーム方針に今季の実戦登板は見送られたが、それを受け入れ地道な練習に積極的に取り組んだ。他球団では同じ年の選手たちがデビューしていく中でもペースと心を乱すことはしなかった。

「来年の一字」はすでに決めていた

 投げない分、野球を見る機会が増えた。プロ野球をこれほど生で見たことはなかった。海を眺めながらポツリと言った。 「野球って面白い。楽しいなあと改めて思いました。それは、いろいろなことです。野球における駆け引きはもちろん、野球場の雰囲気や演出も含めてです。パ・リーグだけでもそれぞれ本拠地はカラーが違う。本当に面白いと思いました。その中で自分は野球ができる。自分でも初登板が楽しみです」  12月は遠投中心の日々を送った。60m程度の距離を保ち、強めの強度で投げ込んだ。時には時間を忘れ、軽く1時間を超えるほど投げた日もあった。  1年の締めくくりは、初めて経験をする契約更改。12月14日に行われた会見で色紙とペンを渡され「来年の想いを漢字一字でしたためてほしい」とメディアから注文されると、躊躇なく「発」と書き込んだ。決めていた文字だった。 「先発の発ですし、実力発揮の発でもある。発見もまだまだしたいし、来年はまた新たな出発でもあります」  若者は笑顔で抱負を語った。昨年は何度か海でたたずんでいた。夜景の時もあれば朝もあった。岩手県の海沿いで育った佐々木朗希にとって、やはり海の匂いを嗅ぎ、音を聞くと落ち着くのであろう。夜景を見ながら今年への想いを整理し、「発」という言葉に達した。  しばし静かなオフを迎え、まもなく新たな出発の時を迎える。郷土でデビューを楽しみにしている人たちのためにも、2021年はいよいよ満を持して先発のマウンドを目指す。“令和の怪物”が本領発揮をする時が近づいている。 文/梶原紀章千葉ロッテマリーンズ広報室長。1976年生まれ、大阪府出身。関西大学を経て1999年産経新聞社に入社。サンケイスポーツ運動部では仰木オリックス、野村・星野・岡田阪神を担当。2005年に千葉ロッテマリーンズに入団、広報担当として2005年・2010年の日本一を経験。2006年にはWBC日本代表の広報業務にも従事した。文藝春秋社、朝日新聞社、千葉日報社など各媒体でコラムを連載中。趣味は競馬で、2011年に解散したメジロ牧場の血統を引く馬を追い続けている。著書に『千葉魂』(千葉日報社・現在6巻まで刊行)など。
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