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本格的に困窮した者を救えない生活保護は“最終的”手段ではない/鈴木涼美

1月27日の参議院予算委員会で、コロナ禍によって生活が困窮する人たちへの対応策を求められた菅首相は「政府には最終的には生活保護という仕組みも。しっかりセーフティネットをつくっていくことが大事だ」と答弁。直接補償を否定する政府の姿勢に反発が強まっている。
鈴木涼美

写真/時事通信社

この風俗雑誌の片隅で/鈴木涼美

 モニークが映画『プレシャス』で演じた貧困家庭の母親は、ケアワーカーが訪問する時だけダウン症の孫を呼び寄せて生活保護を不正受給して暮らす。かといって彼女が社会の旨みを利用して幸福に生きているようには見えないし、とりわけ彼女の娘プレシャスの境遇は悲惨で、健康で文化的な最低限度を満たしているとは到底言えない。  そもそも生活保護の利用率が1.6%と、諸外国と比べても極めて低い日本の場合で、不正受給の割合は保護費全体の0.4%。注目すべき問題ではない。  ’90年代に新聞社の調査で援助交際の経験があると答えた少女たちの割合よりも低ければ、国会で寝ている議員の割合よりも、彼らが不倫している割合よりも遥かに低い。  2度目の緊急事態宣言で再び生活が困窮する人が確実に増えると予測される中、菅首相は定額給付金について「再び支給することは考えていない」と給付を否定、その際に「最終的には生活保護という仕組みも(ある)」とも語ったことが波紋を呼んでいる。  日本の生活保護は、「優先する」とされる親族による扶養の範囲が広く、親族に扶養の可否を問い合わせる扶養照会がネックとなって受給を躊躇う人が多いことも問題となっている。  生活保護の話になると自民党議員だけでなく、若い人たちの間でもすぐに不正受給や労働意欲の問題に焦点が当たるが、それはスポーツでいう反則や、本や雑誌でいう誤植よりずっとせせこましい話題にすぎない。  日本は先進国の中で、失業保険や生活保護で暮らしていくハードルが極めて高い国だとは、フランスで失業保険などを延々と利用しながら気ままに暮らす自称ミュージシャンの男と最近別れた友人の言葉である。  そもそもわからないのは、コロナ禍の経済悪化に対応するために10万円の現金給付が行われ、当然、生活保護の制度は最初からあったにもかかわらず、自殺者の数は急激に増えたわけで、困窮者の状況を救えていないというのは単純にわかる。  生活保護に加えて給付金でも不十分だったのだから、より手厚い支援を、と考えるのが普通だと思うが、大手の旅行会社の困窮には体を張るタイプの政治家も、一介の貧困家庭の困窮には大変冷たい。  地方豪族の高齢者はまだしも、こういう時にさっさと切られる都心の弱者たちがなぜ右傾化して政権擁護してきたのか甚だ疑問だ。  私が20歳そこそこくらいの時、首都圏ではデリヘルブームが起きて、スカウトマンやキャバクラのボーイたちがこぞって開業していたのだが、女の子の確保が難題となる中、風俗雑誌に勤めていた友人が自信を持って勧めていた、確実に問い合わせが増える求人文言は「面接したその日から働けます」というもの。実際、研修や性病検査の必要なくすぐ稼げるという理由で、ソープよりもデリヘルを選ぶ子は今も多い。  ベーシック・インカムの議論を含め、生活保護や失業保険の改善と拡充も大いに進めてほしいが、すでに前例のある現金給付なら、前回より速やかに実施できるはずだ。  本格的に困窮している者は一週間の研修を耐え凌ぐ余裕もないことを知らない与党重鎮たちこそ、「出会い系バーで貧困調査」をしておくべきだった。 ※週刊SPA!2月2日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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