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「赤木ファイル」をめぐる三つの失敗<著述家・菅野完氏>

―[月刊日本]―

沈静化してしまった「赤木ファイル」問題

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写真はイメージです

 500ページを超える「赤木ファイル」がご遺族の手元に届いたのは、6月22日のことだった。昨年3月から続く国賠訴訟の証拠資料として国が裁判所の助言に従い提出したもので、ご遺族が当該ファイルの公開を求めてから一年半近くたっての公開だ。かくて公開された「赤木ファイル」は瞬く間に報道関係者に拡散されることになった。そして、相前後してあのファイルを入手した報道関係者や政治家たちから様々な論評が同日中に提出されるようになる。公開当日から数日間、メディアは「赤木ファイル」一色に染まった。  しかしどうだろう? 「赤木ファイル」公開からまだわずかしか経っていないにもかかわらず、あの喧騒が幻だったかのように事態は完全に沈静化してしまっている。もはや「赤木ファイル」について口に乗せる人はほとんどいない。いたとしてもそれは、例えば麻生財務大臣の不誠実な対応であったり、あるいはファイルの提出に関して遅延工作を行った財務省に対する糾弾の声であったりするばかりで、ファイルの中身や赤木さんが残した証拠についての言及は皆無と言っていい状況だ。結果だけを見れば、「赤木ファイル」の公開は、森友問題の本丸である国有地不当廉売問題の真相究明はおろか、赤木さんが直接関わった公文書改竄問題の真相究明になんら寄与していないとしか言いようがない。  意地の悪い見方をすれば、この急速な事態の沈静化は、財務省の“作戦勝ち”と言えなくもない。裁判所からの再三の助言を無視し「赤木ファイル」公開を渋っていた財務省の態度が急変し提出に応じる意思を示したのは、今年の通常国会閉幕のスケジュールが明確になった直後だった。国会質問で「赤木ファイル」が取り上げられることを避けようとした財務省の意図は明らかではないか。  しかしよしんば国会会期中の公開であっても、「赤木ファイル」はさほどの影響を与えることはなかったであろう。なぜならば、財務省の“作戦勝ち”よりも、「赤木ファイル」に期待を寄せた人々の、稚拙かつ致命的な“作戦負け”があまりにも多いからだ。

「赤木ファイル」を巡る追及側の失策

 まず最大の失敗は、「赤木ファイル」に期待を寄せた側が、あまりにも「赤木“ファイル”」に注目しすぎたことだろう。  赤木さんの自裁が悲劇的であるのは、赤木さんが現場の一職員に過ぎなかった点にこそある。何の権限もなく、したがって不正行為を遂行することによって生まれる利得を享受する立場にない地方組織の下吏に、中央の権力者の立場を守るための作業が押し付けられた。そしてその下吏は、良心の呵責から自裁を選んだ。この流れはまさに“国家による犯罪”“権力者によるイジメ”としか言いようがない。  しかし、赤木さんの自裁をそう定義するならば、同時に、「赤木さんは、森友問題に関する公文書改竄によって直接的な利益を受ける立場になかった」「赤木さんは、森友学園になぜあの土地が廉売されたかを知る由もなかった」という態度を採用せねばならないはずだ。そうでなければ、赤木さんは、森友問題の核心を知る立場、つまり、一地方下吏の立場を超えた“加害者”や“下手人”の一人にになってしまうではないか。  事実、公開された「赤木ファイル」の内容は、赤木さんが「森友問題について何も知らない」ことを物語るものだった。あのファイルに含まれていたものは、財務省本省と近畿財務局の間で取り交わされたメールを含め、ほぼ全て、すでに財務省が2018年の公文書改竄発覚の際に公表した書類ばかりだ。これまで日の目を見なかった書類もごく少数ではあるが含まれてはいるし、その中には、赤木さんの思いが赤裸々に綴られたものもあるにはあった。しかし、それを精読すれば、赤木さんが、森友学園との土地取引に関し国側には瑕疵がないと聞かされていたことや、赤木さんの立場から遂行できる精一杯の抵抗――公文書を改竄すべきでないことや、そもそも瑕疵がないのならば素直に国会に提出すべきであると進言すること――を試みたことが読み取れるにすぎない。つまり未発見の資料も「赤木さんは何も知らなかった」ことを裏付ける内容となっており、“新事実”と呼べるようなものは何もない。  当然であろう。繰り返すようだが赤木さんは地方組織の下吏にすぎない。彼は地方組織の下吏の立場で、自分の命ぜられた範囲で入手できる文書を、自分の業務遂行のためにファイリングしたにすぎないのだ。「赤木ファイル」はあくまでも“ファイル”であって“赤木文書”であろうはずがない。そしてそうであれば新真実が「赤木ファイル」の公開で明らかになるはずなどない――。  この単純な理屈に気づかず、あまりにも多くの人々がファイルの公開に過大な期待を寄せすぎた。そして結果として、その種の人々はあのファイルの公開で肩透かしを喰らった格好となった。事態の急速な沈静化の大きな一因は、ここにある。  この失敗は、森友問題やそれに付随する公文書改竄問題を真剣に追いかけていさえすれば防げた失敗だったはずだ。巨細漏らさずと言わないまでも、これまで財務省が何を公開してきたのか、これまで国会でどのようなことが議論されてきたのか、これまで調査報道がどのような事実を明らかにしていたのかについて大体の概略さえ頭に入っていれば、「赤木ファイル」の内容に期待を寄せるなどという愚行は防げたはずである。
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「被害者意識」に憑依してしまった追及側
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月刊日本2021年8月号

【特集1】東京五輪 敗戦の歴史に学ばない日本
【特集2】立花隆研究 「知の巨人」の虚像
【特別インタビュー】菅総理は「君側の奸」だ(元衆議院議員 亀井静香)、赤木ファイル 万死に値する公文書改ざん(元衆議院議員 福島伸享)


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