文化を尊重しながら、徐々に変えていくことが必要
現地スタッフ(中央)、アフガニスタン現地代表の谷山博史さん(右)と話す長谷部さん。2006年ごろ
西牟田:タリバンに全土を制圧されたアフガニスタンは、今後どうなっていくでしょうか?
長谷部:ソ連が撤退した後、北部同盟やムジャヒディーンによる内戦がずっと続いてきました。これまでのように社会が安定しないのは、アフガニスタンの人々にとってウンザリなわけです。
だから、いかに非暴力な形で政権運営をしていくか。それが求められていると思います。果たして、新しいタリバン政権はそのような形でやっていけるのかどうか。これに関しては、しばらく様子を見る必要があると思います。
西牟田:支援する立場としてはいかがでしょうか?
長谷部:アフガニスタン人の文化を尊重しながら徐々に変えていくことが大事です。私たちは彼らの生活や文化を守っていきながら、サポートをしていきたいと思っています。
「タリバンは敵」とか「元の政権こそが味方だった」とか、二項対立的な見方はよくないと思います。そうでないと、2001年のブッシュ大統領の発言(※)と変わらなくなってきてしまいます。いま日本はアメリカに協力して、自衛隊をインド洋に派遣しています。私たちはこれまでの20年を反省したうえで、普通のアフガニスタンの人々にとって何が必要なのかをいちばんに考えるべきです。
(※)同時多発テロの翌年の2002年9月、ジョージ・W・ブッシュ米大統領は
「我々の側につくか、テロリストの側につくか」というブッシュ・ドクトリンを発表。“テロとの戦い”に協力するかどうかの二者択一を世界の国々に迫った。
タリバンを「テロリスト」扱いし、孤立させるのは得策ではない
西牟田:8月15日以降、ドイツ人ジャーナリストの家族が殺害されるなど、さっそく暴力事件が発生しています。ジャララバードでの抗議デモ隊への発砲で3人が死亡する事件も起きています。
長谷部:タリバンというのは運動体です。末端まで組織をしっかりコントロールできているわけではありません。また、タリバンを騙るグループが勝手に自分たちで決めつけた「犯罪者」狩りをするなどの動きが出てきていると聞いています。
今後、トップがそうした末端の動きをどこまで把握してコントロールできるかが重要。
今後は、押しつけにならない形で我々の考えも伝えつつ、タリバンを孤立させないようにすることが何よりも大事だと思います。
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1998年当時、カンダハルでは街中にケシが野菜として売られていた(麻薬となるエキスは抽出済み)
カブールなどの大都会と、古くからの慣習が根強く残る田舎。同じ国でも常識がまったく違っている。数百年違う価値観を持つ人々が一緒に暮らしているようなものかもしれない。その田舎の人たちに、すぐに変わることを望んでもそれは難しいことだ。
一方で、まるで田舎の価値をバックラッシュさせるかのようなタリバンの進撃が、進歩的で現代的な都会の人たちを恐れおののかせたことは、想像に難くない。タリバンという存在は、見ている立場によって善にも見えるし悪にも見える。そんな存在なのかも知れない。
今後この国はどうなっていくかについては、なかなか分かりづらい。ただひとつ言えることは、タリバンを「テロリスト」だと峻別し、外国勢力が再び彼らを攻撃してカブールから追い出すのも、国際社会が無視を決め込むのも、得策ではないということだ。
この国をふたたび帝国の墓場にしてはならない。
文・写真/
西牟田靖(にしむた・やすし)
ノンフィクション作家。1970年、大阪府生まれ。国境や家族などをテーマに執筆。タリバン政権時代の1998年、アフガニスタンを取材し、危険な目に。著書に
『僕の見た「大日本帝国」』(情報センター出版局)
『ニッポンの国境』(光文社新書)
『本で床は抜けるのか』(中公文庫)
『わが子に会えない』(PHP研究所)
『中国の「爆速」成長を歩く』(イースト・プレス)など。