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「2020年の東京も焼け野原だ」コロナで失職、Uber配達員として駆け抜けた日々の記録

2020年の東京も焼け野原だ

――「Uber Eats」配達員をやり始めて、率直な感想は? 青柳 飲食店とお客さんという“人と人をつなぐ職業”だと思っていましたが、全然違いましたね。コロナ禍で非対面の「置き配」というシステムが始まったこともあり、本当に人と接触しない。僕は頼まれて食べ物を運んでいるのに、タワマンとか行くとむしろ毛嫌いされている気すら感じました。 ――変な話、「コロナが牛丼もってやって来た」みたいな扱いを受けた? 青柳 本当、そんな感じでしたね(笑)。当時、Uber Eats配達員は本当に評判が悪い。直接言われないにせよ、嫌われている空気はビンビン感じてました。 ――映画のなかで「2020年の東京も焼け野原だ」というテロップが流れるシーンがありました。あの真意は? 青柳 コロナ禍で断絶が生まれ、ひとりひとりの心が疲れ果てていた。誰もがその穴埋めをしたいのに、やはりコロナのせいで人と人とが繋がれない時代。それを僕は敢えて「焼け野原」と表現しました。でも、絶望だけではなく、「今が一番のどん底だよ。これからは上を目指して頑張ろうよ」というメッセージもあるんです。

「Uber Eats」配達員だからこそ聞けるデリヘル嬢の本音

――ここまでの話だと、さぞかし悲壮感漂うだと思う方もいらっしゃると思いますが、これが全然違う。これも監督のキャラゆえだと思いますが、あまり悲壮感がない。むしろコメディーだと思えるシーンも多かったですね。 青柳 コロナ禍という状況を撮っているわけですから、どこを切り取っても悲惨なもの。でも、そんな暗すぎる映画は誰も観たくない。だからお客さんが楽しんで観てもらえる作品になるよう、心がけました。 ――あまりにも人との接触がなく、人恋しさに襲われた監督がデリヘルを呼ぶシーンも。しかし、これがとんでもない結末に終わる。あそこは全男子が泣けると思いました。 青柳 お恥ずかしい(笑)。当時、オールナイトニッポンで岡村隆史さんが炎上したじゃないですか。 ――「コロナが明けたら、美人さんがお嬢やります。短期間でお金を稼がないと苦しいですから」と発言し、「女性蔑視だ!」と大炎上した件ですね。 青柳 コロナで仕事がなくなり、その煽りで男性はUber Eatsを、女性はフーゾクをするかもしれない。だから岡村さんの言っいてることも一理あるなと思って。僕がデリヘルを呼んだのも、Uber Eats配達員という末端の仕事をやっている映画監督として、どう彼女の話を聞くか? という面もあったんです。 ――いい話ですね。 青柳 映画を撮るうえで決めたのは、ちゃんとUber Eats配達員という軸を持つべきだということです。それがなければ撮れないし、人と係わっても説得力がないと思ったからです。ただの映画監督がコロナ禍の東京を撮ったり、街頭インタビューしたりするのはやめようと思っていました。 ――「最下層」とすら呼ばれるUber Eats配達員をガチでやらなければ見えない景色というのは、確かに映画にありました。 青柳 だから社会的な話をデリヘル嬢から聞きたいという意図もあったんです。まあ、欲望的な部分も含めてですけど(笑)。
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コロナとウーバーイーツは世界共通語。世界中の人に観てほしい
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