コロナとウーバーイーツは世界共通語。世界中の人に観てほしい
――先ほど監督がUber Eats配達員は世間に毛嫌いされてた」という発言がありましたが、有名人でもそんなツイートされている方もいましたよね。
青柳 糸井重里さんですよね。「Uber Eats? 頼んだことないんだけど、服装の清潔感とかサンダル履き禁止とかについてのルールはないみたいだね」というツイートされててそれに関しては「そうなんです」としか答えようがない。ルールないんで。あと清潔感とか言っていられないんですよ、配達員は金稼ぐのに必死。だからUber Eatsのようなシステムが成り立ってしまう、そしてそれが流行ってしまう世の中になってしまった、そのことについて考えてほしいですね、偉い人たちには。上から目線で言うのではなくて。
――この映画を撮っての“気づき”があったら、教えてください。
青柳 僕自身、政治や社会を自分ごととして捉えていないところがありました。でも、配達員をやっているうちにUber Eatsのシステムや社会に対する違和感が積み重なっていったんです。その違和感の根本を考えていくと、意識を向けなきゃいけない大事なものがあるんじゃないかと思うようになりました。
――つまり、それは政治?
青柳 そうです。よく言うじゃないですか、「どんなことも政治だ」って。「ご飯食べるのも、テレビを見るのもすべて政治がかかわっている」って。そんなふうに、当たり前のこととして政治を受け入れるようになりましたね。
――話は変わりますが、主題歌の『東京自転車節』が凄くいいですね。炭坑節の替え歌で「♪チャリを~こげ、こげ~、チャリを~こげ~」って。
青柳 炭坑節は労働歌でもあるので、現代の労働歌にしたかったんです。炭坑節は自分を鼓舞する歌であり、炭鉱夫たちが集ってみんなで頑張る歌でもあった。とても血と汗の通った歌なんです。だから現代の“節”として、ウーバーイーツという巨大なシステムにぶち当てたかったんです。
――では最後に、この作品をどんな人に観てもらいたいですか?
青柳 観てくださった方からは「自分と重ねて観た」という感想をいただきました。コロナ禍を描いているので、「あのとき私は、こうだったなあ」と自分ごととして観てくださってて。だからどんな方が観ても、それぞれの視点で観てもらえる映画だと思います。もちろん配達員の人が観たら、「あるある」と楽しめるし、逆にタワマンの注文者の人にも観てもらいたい。僕らがどんな思いで食べ物を運んでいるかわかりますから。あと様々な問題提起が詰まっているので、社会的なことに関心がある人が観ても楽しめると思います。コロナ、Uber Eats……よく考えてみればこのふたつは世界共通語なので、全世界の人に観てほしいですね(笑)。
(後編に続く)
取材・文/村橋ゴロー
■『
東京自転車節』
2020年3月。青柳監督は代行運転で生計を立てていたが、コロナ禍で仕事がなくなってしまう。そんなときプロデューサーから自転車配達員の仕事を撮ってみないかと声がかかる。しかし、仕事の現場は感染者数が日に日に増えていた緊急事態宣言下の東京。感染しないようにとおばあちゃんが縫ってくれたマスクをして、外出自粛で人がいない街を駆け抜ける。半径2メートルの配達員視点にあって、東京の真の姿までもが浮き彫りになる路上労働ドキュメンタリー。
制作年:2021
監督:青柳拓
2021年7月10日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開